
Sow the word. (このことばをタネにしてまく)
⚫︎ タネをまくって、本当に何をすること?
「自信をつける」「勇気を出す」。
そのために、「自信のタネをまく」「勇気のタネを育てる」といった言い方をすることがあります。
でも、自信や勇気に、本当にまける、具体的なタネがあるのでしょうか?
あります。
だれかのひと言に、心を動かされたことはありませんか。
「だいじょうぶ。」
「ひとりじゃない。」
「じぶんで決めなくていいんだよ。」
短いことばです。
じぶんに響くことばがあります。
でも、そのことばを聞いたからといって、すぐに自信がついたり、勇気が出てくるわけではありません。それでも、そのひと言が残ることがあります。
あとになって思い出す。
ふと、じぶんでも口にする。
苦しい時に、もう一度言ってみる。
タネになるのは、ことばです。
声になってじぶんの中にはいり、くりかえされることば。
ただし、いいことばに出会っただけでは、まだタネをまいたことにはなりません。

⚫︎ 耳のことばは、人の内側に入っていける
ことばのタネは、声になって人の中に入ります。
あたりまえすぎて、ふだん、このことを考えてみることなど、ほとんどないでしょう。
人が声を出す時、その人の肺にある空気が気流になって押し出され、空気中の分子が震える。その振動が相手の耳に届き、身体の中に入り、それが脳でことばとして再現される。
物理現象(ものの原理)と認知現象(脳の働き)が一瞬に起きています。(*注1)
これは、人に向かって出した声だけの話ではありません。じぶんが声にしたことばも、じぶんの耳に届き、じぶんの内側に入ります。
声は外に向かって出ていく。けれども、外にタネをまいているように見えて、実は、じぶんの内側にもタネをまいているのです。
声に出したことばは、ひとりの身体から出て、相手の身体の中へ入る。受け手から見れば、身体の外からやってきて、じぶんの内側に入ってくるのです。
その声には、ことばだけでなく、気持ちや情感も乗っています。
「だいじょうぶ。」
「ひとりじゃない。」
だれかの身体から出た声が、じぶんの耳に入り、ことばとして残る。
そして、そのことばを、今度はじぶんの声で言うことができます。
声は、私たちに備わった、こころとこころを直接結ぶメディアなのです。

⚫︎ 目からは、直接、何も送り出せない
私たちは目で、文字を読みます。絵や映像を見ます。人の表情や身ぶりからも、たくさんのことを受け取ります。
けれども、目は受け取る器官です。
じぶんの目から文字を出して、相手の目に送り込むことはできません。頭に浮かんだ映像を、目からビームのように出して、相手に見せることもできません。
文字を届けるには、書くという行為がいり、それを紙や画面で送る必要があります。映像を届けるには、描いたり、撮ったり、画面に映したりするものがいります。
声には、それがいりません。
じぶんの身体でつくり、そのまま身体の外へ出す。
相手は、それを耳から身体の中へ受け取る。
同じ場所にいれば、その場で声を届けられます。離れていても、電話なら、その瞬間の声を届けられます。
そして、録音すれば、時間をずらすこともできます。
昨日の声を、今日聞く。
遠くにいる人の声を、いまここで聞く。
もう会えない人の声を、何年もあとに聞くことさえできます。
録音されているのは、声のコピーです。
でも、そのコピーが、そのまま頭の中に入るわけではありません。
耳に届いた音から、ことばが、いま、じぶんの脳の中で再現されます。
思い出す時も同じです。
ことばが、どこかに完成した形で常駐していて、それをそのまま取り出すのではありません。
思い出すたびに、ことばが立ち上がる。
声にするたびに、またつくられる。
聞くたびに、またじぶんの内側に響く。
同じ一回をコピーしているのではありません。
そのつど、いまのじぶんの中で、ことばがもう一度生まれるのです。

⚫︎ じぶんの声で、タネをまく
人からかけられたことばの中には、あとまで残ることばがあります。
これまで、私自身が人からかけられて、最も励まされたことばのひとつが、これです。
You’re not alone. (じぶんひとりではない)
「ひとりではないよ」は、じぶんひとりで苦しまないでもよい、おなじような体験をしている人はたくさんいる、みんな、おなじなんだよ。
それから、
I’m with you. (いっしょだよ)
わかるよ。おなじ気持ち。いっしょにいるよ。
筆者の肉声です。こんなふうに、じぶんに声をかけるのです。
私自身、人からかけられたことばが、あとになってじぶんの声になった、忘れられない体験があります。
姉を亡くしたあと、姉の声が心に浮かび、そのことばが、やがて私自身のことばになりました。その体験を、こちらのエンパレットノートに書いています。
何かを教えたり、解決したりすることばではありません。
でも、じぶんと共にいる人がいる。いっしょにいてくれる人がいる。じぶんのために時間をわけてくれる人がいる。
そのこと自体が、元気を取り戻す力になるのだと思います。
反対に、ことばで励まそうとすると、どこか「がんばれ」というPushになってしまうことがあります。
意見やアドバイスをしようとすると、それがいかに建設的で、理屈にかなっていても、相手を押すことになる。
何かはわからないけれど、調子が悪い。体調なのか何なのか、とにかく気分がすぐれない。
そんな時に、理由を解明されたり、「こうしたら」と示されたりしても、それをする力がなければ、かえって重荷になります。
人から励まされたことばを、今度はじぶんで声にする。
人から受け取った声援を、じぶんへの声援にする。
それが、ことばのタネをまくことです。
Seed your words. (ことばのタネをまく)
⚫︎ くりかえすことが、手入れになる
タネは、まいただけでは育ちません。
ことばも、一度声にしたら終わりではありません。
もう一度、声にする。
あとで聞き直す。
書きとめる。
そこに、いまのじぶんのことばを書き加える。
同じことばでも、声にするたびに、まったく同じものが再生されるわけではありません。
その時のじぶんの経験や気持ちと結びついて、ことばは、そのつど内側で再現されます。
くりかえしは、コピーではありません。その都度、ことばをじぶんの中に生み直すことです。
そして、声のくりかえしには、もうひとつ不思議なことがあります。
何度も聞いた人の声は、その人が目の前にいなくても、じぶんの中に浮かぶようになります。
手紙を読む。メッセージを読む。
そこには音声はありません。
それでも、その人の声が聞こえてくるように感じることがあります。
文字しかないのに、声がある。
これまで聞いてきた声が、文字をきっかけに、じぶんの内側で再現されるのです。
人の声が、じぶんの中に宿る。
声だったものが、やがて心の働きになる。
だから、ことばの手入れとは、同じことばをただ何度も唱えることではありません。
声にする。聞き直す。書く。思い出す。経験と重ねる。
そのたびに、ことばは、じぶんの中で育ちます。

⚫︎ ことばは、人から人へ育っていく
じぶんを励ましてくれたことばを、今度は、だれかにかけることができます。
人から受け取ったことばを、じぶんの声にする。
その声を、また人に届ける。
その時、そのことばを聞くのは、相手だけではありません。
人にかけたじぶんの声は、じぶんの耳にも入ってきます。
だれかの声が、じぶんの中に宿る。
そのことばが、じぶんの声になる。
そして、その声が、まただれかに届く。
ことばは、そうやって人から人へ渡りながら、それぞれの人の内側で育っていきます。
ことばのタネを、毎日まき、育ててきた人がいます。
隣人であり友人でもあるアートさんは、エンパシームをゼロから見守りながら、毎日ひとつ、ことばを残すプラクティスを長年続けてきました。
「謙虚でいる」「感謝する」。短いことばを声にし、毎日のふるまいにする。そのプラクティスが、いまのエンパレット、エンパレットノートの原点にもなりました。
タネになるのは、励ますことばだけではありません。
Relax. (気を楽に)
Let it go. (手放してごらん)
じぶんをゆるめることば。
抱えているものを手放すことば。
そんな短いことばも、人から受け取り、じぶんで声にして、じぶんの中で育てることができます。
ことばの背景については、こちらのエンパレットノートにもあります。
Grow from within. (内側から育つ)
人を外から育てることはできない。
でも、ことばを届けることはできる。
人から届いたことばを、じぶんの声で響かせる。
くりかえし、じぶんの内側に育てる。
そして、じぶんが励まされたように、今度は人にことばを届ける。
外から人は育たない。人は内側から育つ。
そのあいだをつなぐものが、プラクティスです。
そして、そのプラクティスのエッセンスは、声です。
(*注1) 声は空気の振動として耳に届き、内耳で神経信号に変換されます。その情報をもとに、脳は音のまとまりをことばとして認知します。聞いたことばが、そのまま完成品として脳内に保存されるのではなく、聞くたび、思い出すたびに、その都度、ことばとして立ち上がります。
声に出したことばは、発声する身体の運動としてつくられ、同時にじぶんの耳から音として入り直します。声にすることは、ことばを外へ伝えるだけでなく、じぶん自身がそのことばを受け取ることでもあります。

⚫︎ 内側が育つ|Grow From Within ① 外から人は育たない
⚫︎ 内側が育つ|Grow From Within ② 教えたと身についたは同じではない
⚫︎ 内側が育つ|Grow From Within ③ やって、うまくいかないから、はじめてわかる
⚫︎ 内側が育つ|Grow From Within ④ できる人には、見えないものがある
⚫︎ 内側が育つ|Grow From Within ⑤ ことばのタネをまき、育てる
⚫︎ 内側が育つ|Grow From Within ⑥ 同じことをしていても、育ち方はちがう
⚫︎ 内側が育つ|Grow From Within ⑦ たのしい、うれしい、おもしろい
作(文・挿絵・声に出すことば・声):坂口立考
出典・参照:以下のエンパレットノートなど
