
Seed your words. (ことばのタネをまく)
プラクティスとは、練習をする時間のことではありません。
身につけながら、じぶんが変化していく過程です。
だから、その意味で、プラクティスに「終わり」はありません。あるのは、ひとつひとつの区切りです。
今日の15分、20分のプラクティスも、そのひとつ。集中していれば、どれだけ時間がたったのか、あとから気づくこともあります。
そして、ことばを身につけるうえでは、その区切りのあとが大切です。
学んだことは、その場のくり返しだけで身につくのではありません。練習を離れたあとにも記憶の定着は進み、睡眠をへて、また次の日を迎えます。
人間も、地球の一日を生きる生きものです。起きて活動し、眠り、また次の日を迎える。ことばを身につけることも、この周期の中にあります。
だから、今日と明日の「あいだ」をどう過ごすか。
そこが、プラクティスのカギになります。
⚫︎ 練習と練習の「あいだ」をつなぐ
今日のプラクティスで声にしたセリフを、その日のうちに、何度か思い出して口ずさみます。
歩きながら、電車を待ちながら、ふとした時でかまいません。
何も見ず、何も聞かず、じぶんから声にする。ほんの数秒です。
ここで大切なのは、時間の長さではなく、取り出す回数です。
一度に長くくり返すのではなく、いったん離れて、また思い出す。
しばらくして、また声にする。
そうして一日の中に、小さな「取り出す機会」をつくります。
これは、練習時間を増やすためではありません。
覚えたことばを、必要な時に取り出せることばにしていくためです。
⚫︎ 声にすることで、内側に刻む
ことばを身につけるとは、覚えて、必要なときに取り出せるようになることです。
記憶は、ことばを頭の中に在庫のように溜めておくしくみではありません。
場面や音などを手がかりに、ことばをもう一度取り出せる。その「想起」ができて、はじめて覚えていることが働きます。
そして、取り出したことばを声にする。
声に出すことは、覚えたものを外へ出すだけではありません。ことばを取り出し、身体を動かして発話し、その音をじぶんで聞く。その一回一回が、ことばを内側に刻む行為になります。
だから、ふと思い出して口ずさむ回数が効いてきます。
Say it out loud, often. (頻繁に、声に出して言う)
⚫︎ ことばのタネを声でまく|声に出すことが内側にまくこと
練習と練習の間でやることは、シンプルです。
ひとこと、口ずさむ。
短くて、声にしやすい。音やリズムをつくるプラクティスになる。そして、意味としても、じぶんを支えてくれる。そんなフレーズなら、日常の中で何度も思い出す理由があります。
「自信を持とう」と思うだけでは、自信そのものを植えることはできません。
「もっと前向きになろう」と思っても、それだけでは身体も脳も動きません。
でも、ことばなら声にできます。
まくのは「自信のタネ」ではありません。まくのは「ことばのタネ」です。
人からかけてもらったことば、じぶんを支えてくれたひと言を、今度はじぶんの声で言ってみる。じぶんに声援を送るのです。
声にすれば、口が動きます。じぶんの耳にも届きます。脳内でも、そのことばを取り出し、声にする働きがくり返されます。
何度も思い出して、声に出す。
声にするたびに、そのことばが身体と脳に刻まれていきます。
抽象的な心構えではなく、具体的なことばを、具体的な声にする。
声に出すことが、内側にまくこと、そのものです。
そして、何度も思い出して声にすることが、そのタネの手入れになります。
やがて、そのことばはインナースピーチ(内なることば)となり、じぶんの内側から出てくるようになります。
⚫︎ くりかえすたびに、じぶんが変わる
くりかえすといっても、同じことを何度もするだけではありません。
今日声にしたことばを、そのあと何度も口ずさむ。眠り、次の日を迎える。その経験をもったじぶんが、また次のプラクティスをします。
同じセリフを声にしても、昨日とまったく同じところから始めるわけではありません。昨日までに声にしたこと、気づいたこと、身についたことが、今日のじぶんに含まれています。
そして、今日身につけたことが、また明日のじぶんに含まれていきます。

この図では、前にしたことを受け取って、次の行為が続いていきます。
▷ 聞いたことをまねる。
▷ まねたことをえんじる。
▷ えんじたことをたしかめる。
▷ たしかめたことに問いを立てる。
▷ 問いを立てたことを書く。
▷ 書いたことをふりかえる。
▷ さらに、ふりかえったことに人がよりそい、そのよりそいに思いをはせる。
▷ そこで生まれたものも、次のプラクティスにつながっていきます。
ひとつ前にしたことが、次の行為の中に入っていく。
▶︎ 前のアウトプットが、次のインプットになる。
▶︎ それを受けて、またアウトプットする。
▶︎ そのアウトプットが、さらに次のインプットになる。
このように、前に生まれたものを内側に含みながら、次が生まれていきます。
だから、同じところを回る円ではありません。
前に得たものを含みながら、じぶんも少しずつ変化して進んでいく、らせんになります。
こうした、前のものを内側に含みながら次が生まれていく「入れ子」のくりかえしを、Recursion(再帰)と呼びます。
このシリーズを「Recursion」と呼んでいるのも、このためです。
前にしたことを次に生かし、そこで生まれたものをまた次へつなぐ。この再帰的なくりかえしが、身体・脳・心を働かせて、ことばを身につけるプラクティスの核心にあります。
なぜ再帰が「身につける」ことのしくみになるのか。こちらのエンパレットノートで詳しく紹介しています。
Cross the threshold. (しきい値を超える)
⚫︎ 小さな変化を積み重ね、しきい値を超える
一度に起こせる変化は、わずかです。
▷ 余計な音がひとつ減る。音のつながりが少し近づく。
▷ ビートへの遅れが少し小さくなる。
前には聞こえなかった違いに気づく。
英語耳°のプラクティスでは、知識を次々に足していくよりも、手本とじぶんの違いに気づき、邪魔になっているものを少しずつ減らしていきます。
日本語の音やリズムを持ち込むクセ。文字から音をつくるクセ。手本にはない音を、じぶんでつけ足してしまうクセ。
気づかないままくりかえせば、そのクセもいっしょに身につけてしまいます。だから、手本とじぶんを比べ、「それではうまくいかない」と確実に言えることを、ひとつずつ減らしていきます。
この引き算の積み重ねを「つみへらし」と呼んでいます。
ひとつひとつの変化は、ごく小さなものです。
小さな変化は、しばらくのあいだ、目に見える違いにはなりません。
でも、少しずつ積み重なると、あるところから「聞こえる」「できる」「自然に出る」という変化になって現れます。
この量の積み重なりが質の変化として現れる境目を、しきい値(Threshold)と呼びます。(*注1)
それまで聞こえなかった違いが、聞こえる。意識しないとできなかったことが、自然にできる。思い出そうとしていたセリフが、口をついて出る。
一度にしきい値を超えようとするのではありません。前に減らしたずれを次へ持ち越し、そこでまた気づき、また少し減らす。小さな修正をつなげながら、しきい値をひとつずつ超えていきます。
一日にできる修正は、わずかです。だから、まとめてたくさんやる「やりだめ」はききません。
今日の小さな変化を次へつなぐ。次は、そこからまた少し変える。この日々の「つみへらし」が、やがて大きな違いになります。
「足りないものを足す」のではなく、「邪魔しているものを減らす」。Unlearningと「つみへらし」については、こちらのエンパレットノートで紹介しています。
Cheer yourself on. (じぶんに声援を)
⚫︎ 声援のことばを、じぶんの声にする
口ずさむことばは、じぶんだけでつくるものではありません。
人からかけてもらったことばを、あとで思い出す。そのことばを、今度はじぶんでも声にする。
人の声だったことばが、じぶんの声になります。何度も思い出して口ずさむうちに、インナースピーチとなって、じぶんの内側でも働くようになります。
そして、声援はじぶんに向けるだけではありません。
誰かを思って、ことばを声にする。人を励ますために出したことばが、じぶんの耳にも届き、じぶん自身を勇気づけることもあります。
人からじぶんへ。じぶんから人へ。外から内へ、内から外へ。
ことばは、そのあいだを行き来します。
じぶんへの声援、人への声援、ことばを内なる声にするプラクティスについては、こちらでも紹介しています。
筆者のサンプル肉声がついていますので、まねてみてください。
⚫︎ くりかえしが、しくみになる
このシリーズのはじめに、ことばを身につけるとは、身体・脳・心を働かせることだと書きました。
① 身体を動かして、声にする。
② 脳を働かせて、認知し、再現する。
③ 練習後の発声頻度がしくみになり、心の働きになる。
「心を働かせる」というと、もっとがんばることのように聞こえるかもしれません。
話は逆です。
練習が終わったあとにも、ふと思い出して声にする。それが一日の中で何度も起き、次の日にもまた起きる。前に生まれた変化を含んで、また次へ進む。
それを意志の力で毎回起こすのではありません。頻繁に起きることで、くりかえしそのものが日常のしくみになっていきます。
同じ場所を回るのではなく、前に得たものを含んで次へ進み、しきい値をひとつずつ超えていく。
じぶんが、そのらせんになるのです。
身体と脳で起きた変化が、日々のくりかえしとして自然に働くようになる。
そこまでくると、ことばは自然に身につきます。
(*注1)しきい値(Threshold)とは、小さな変化の積み重ねが、あるところで質の変化として現れる境目です。
たとえば、水を熱すると、温度は少しずつ上がります。しばらくは水のままですが、一定の条件のもとで沸点に達すると、沸騰して水蒸気へと状態が変わります。物を押す時も、弱い力では静止摩擦に負けて動きませんが、ある力を超えると動き出します。
身につける時にも、これに似たことが起こります。毎日の小さな修正は、その場ではほとんど変化を感じられないことがあります。それでも積み重ねていくと、あるところで「聞こえなかった音が聞こえる」「意識しないとできなかったことが自然にできる」といった変化になって現れます。しきい値を超えて、はじめて次の段に上がるのです。
大切なのは、その手前です。まだ新しい状態が安定していないうちは、間をあけると元の状態へ戻りやすくなります。だから、一度にたくさん練習して「やりだめ」するよりも、小さな変化を途切れさせず、次の日へつなぐことが大切です。毎日のプラクティスをストリークにするのも、そのためです。
ひとつのしきい値を超えると、そこで得たものが次の足場になります。その足場からまた小さな変化を積み重ね、次のしきい値を超える。身につける変化は、なだらかな一直線ではなく、階段を一段ずつ上がるように進んでいきます。

⚫︎ 身体(運動)
① 身体全体で声に出す (Vocalize)
② 小分けにしてまとまりにする (Chunk)
③ セリフをビートに乗せる (Beat)
⚪︎ 脳(認知・想起)
④ 瞬間の処理力を鍛える (Process)
⑤ 文字ではなく、情景を思い出す (Recall)
⑥ スローにして比較する (Contrast)
◎ 心(自走・再帰)
⑦ いつもセリフを口ずさむ (Internalize)
英語耳°を獲得するプラクティス|Recursion(リアルタイムの音声認知・再現力を鍛える練習ループ)
⚫︎ 英語耳°を獲得するプラクティス|Recursion①身体を使って声に出す(Vocalize)
⚫︎ 英語耳°を獲得するプラクティス|Recursion② 小分けにしてまとまりにする(Chunk)
⚫︎ 英語耳°を獲得するプラクティス|Recursion③ セリフをビートに乗せる(Beat)
⚫︎ 英語耳°を獲得するプラクティス|Recursion④ 瞬間の瞬発力を鍛える(Process)
⚫︎ 英語耳°を獲得するプラクティス|Recursion⑤ 文字ではなく、場面を思い出す(Recall)
⚫︎ 英語耳°獲得のプラクティス|Recursion⑥ スローにして比較する(Contrast)
⚫︎ 英語耳°獲得のプラクティス|Recursion⑦ セリフをいつも口ずさむ(Internalize)
作(文・挿絵・声に出すことば・声):坂口立考
出典・参照:以下のエンパレットノートなど
