Empathemian, Lake Michigan, Illinois

Do it over and over.(それを、くりかえせ)

プラクティスの真髄は「くりかえし」です。

プラクティスは、姿勢、思い、技を身につける、行為が続いていくこと。
その意味で、プラクティスとは、練習、実践、習慣をあわせたことばです。

くりかえしは:

・くるくるとまわる、風車のイメージ。

・行きつ戻りつする、波のイメージ。

くりかえすとは、文字どおり、前半が「くる」、後半が「かえす」こと。
回転が続く様子、おなじリズムが持続する様子が思い浮かびます。

くりかえしは、ものごとを身につけるための必要条件です。

くりかえされないことが、身につくことではありません。

くりかえされるプラクティスとは、単に回数が多い、ことではありません。

・短時間に、行為の回数が多いこと。

・ムダなく、ムリなく、ムラなく、続くこと。

・意識せずに、成果に後から気づくこと。

ところが、そのためには「がんばらないといけない」という発想に、つい、なりがちです。

実は、もっと大事なことがあります。

それは、くりかえされやすい状態をつくることです。
そちらへじぶんが導かれるように、はからうことなのです。

Empathemian, Sunnyvale, California

視点を変えてみましょう。

じぶんが「くりかえしている」という意識から、プラクティスが「くりかえされている」という意識へ。
じぶんではなくて、じぶんのいる状態に着目するのです。

それをひとことで言うと、「クリカエシビリティ」です。

聞き慣れないことばでしょう。辞書には載っていません。
英語で、ものごとの状態や性質を表す、〇〇ビリティということばがたくさんあります。(注1)
それをもじった造語です。(注2)

「くりかえしやすさ」こそ。
プラクティスの真髄は、プラクティスがくりかえされやすい状態をつくること。
その手入れをすること。
クリカエシビリティです。

じぶんの力だけではありません。
じぶんの身体、身のまわりの「自然の力」を借りているのです。

いちばん身近な自然の力は、空気です。
ふだんは考えてみることもない、空気。
空気があって、静穏、呼吸、音声、間あいが生まれます。

また、じぶんの力ではないことは、みな自然の力です。
回数、持続、循環。
空間と時間。

意外に思うかもしれませんが、「くりかえす」という行為は、そもそも、存在しません。
じぶんでできることは、1回1回の行為だけです。
それが続いていくことを「くりかえす」と呼んでいるだけ。
くりかえされて、はじめて、そのように言えるのですから。

それは、じぶんだけの力ではありません。
じぶんと共にある力に、ゆだねることなのです。
自力ではなくて、自他力(しぜんの力)が、クリカエシビリティ。

Empathemian, Sanborn Stuart Ridge Trail

クリカエシビリティ = 障害 x 反復 x 持続 

そのような感覚をイメージしてみることが、とても大きな支えになります。
その支えの上に、もうすこしかみくだいて、考えてみましょう。

3つの要素があります。

①行為のあり方(プラクティスがくりかえされる場)

まず、妨げるものを小さくすることです。

・静穏(しずかに坐る)(周囲のノイズは大きな妨げ)

・身体の力を抜く(頑張る意識を和らげる)

・心を落ち着ける(余計なことを考えない)

②反復のあり方(プラクティスの、くりかえされ方)

やり方を統一することでエネルギーロスが抑えられます。
定型のルーティンを持つことです。

・おなじ環境(おなじ場、おなじ時間)

・おなじテーマ(ひとつのテーマにそって)

・おなじ形式(内容・デザインの形式、単位、分量、配分、順番など)

・おなじ作法(ひとつの流れ・循環、姿勢)

くりかえす回数が多くなるためには:

・1回にかかる時間が短いこと

・何回でもすぐできること

・じぶんでふりかえって確かめられること

③持続のあり方(くりかえされたもののつながり)

大きな成果につながるためには、次のような要素が働くことに配慮します。

・周期的なリズム(毎日する)

・再帰的な持続(出し入れ)

・測定できる単位(何回したか、ふりかえれる)

再帰的とは、出力したものが、次の入力になることです。
あれこれ、バラバラにではなく、おなじ路の上で、一点に集中してくりかえすこと。

毎日するのは、足し算。
再帰的なくりかえしによって、掛け算になります。

再帰ということばは、ちょっとむずかしそうに聞こえますね。
でも、本当は、とてもシンプルなこと。

じぶんの声で、ひとことのことばを出すこと。
声に出す時、空気の力によって、じぶんでも聞いています。
それを書き写したり、メモや見出しをつけること。
これは、再帰です。

それが起きやすい状態が、クリカエシビリティ。

念ずれば花ひらく

自然の力は、クリカエシビリティ。

ゆだねて、手入れをすれば、花はかならず開きます。

一日一回、心をこめた声ことば
一日一回、身をもってふるまい
そのじぶんを、ふりかえること。

Let it happen.(ゆだねて、起きるように)

出典・参照:『修養トレイルガイド』

(*注1)英語由来の〇〇ビリティということばが、日本語の中にも定着しています。〇〇性とか、〇〇力といったことばがあてはめられている場合が多くあります。ひとつ注意がいります。漢字の熟語によって抽象化されると、何を意味しているのか、もとの意味がわかりにくくなったり、意味を取り違えたりするからです。

〇〇ビリティの原義は、そのことばの動詞にあります。行為や行動、働きが「起こりやすいかどうか」という意味です。たとえば:

stability スタビリティ(安定性): stayしやすい状態、安定した状態

flexibility フレキシビリティ(柔軟性・適応性):flexしやすい、曲げやすい、変えやすい状態

responsibility レスポンシビリティ(責任): responseしやすい、相手に応じられる状態

accountability アカウンタビリティ(説明責任): accountしやすい、説明がつくこと(後から説明すればよい、という意味に誤解されている)

(*注2)あえて、クリカエシビリティという造語を考案した理由は、くりかえす能力ではなく、くりかえされやすさにこそ、注目すべきだからです。また、英語の、再帰(recurse)ということばには、いろいろな専門分野で使われる一方、一般にはなじみが薄いため、このような表現によって、プラクティスの本質を掘り下げてみるためです。

プラクティスのしやすさ

プラクティスの意味

身につける ① 真髄

センスを身につける [実はいちばんはじめに大切なこと]

Recursion