
Nurture your resilient mind.(しなやかな心を育てる)
強い風が吹いても、折れない草木のように。
風を止めることはできません。
草木は、風が吹いた時に、身体をしなやかにさせています。
紫外線を止めることもできません。だから、自分のからだの中で、活性酸素から身を守る物質(ビタミン)をつくります。
見えない力に対して、工夫をする。植物もまた、自分のからだを手入れしながら生きています。それが、植物のレジリエンス。
人間もおなじです。
メンタルの不調や心の病について、さまざまなことが語られます。
仕事、学校、人間関係、事故や病気、ことばの暴力、喪失など。ストレスの原因はひとつではありません。また、それらをすべて取り除くこともできません。(*注1)
だから、レジリエンスは「ストレスをなくす方法」を考えることから始まりません。
いつものじぶんを育てること。そこから始まります。
形が崩れた時、戻る先があること。戻る先とは、性格でも、意志の強さでもありません。
毎日のプラクティスです。
⚫︎ じぶんに向けることばを整える
⚫︎ 相手に向けることばを整える
⚫︎ 静かに呼吸を整える
⚫︎ ゆっくり姿勢を整える
どれも、問題を「解決」するためではありません。
形が崩れそうになった時に、いつのじぶんに戻るためのプラクティスです。
人は出来事だけで崩れるのではありません。
その出来事を、身体がどう受け止め、どんなことばを自分に語りかけ、どんな状態をくり返しているか。
その積み重ねが、「いつものじぶん」をつくっています。
だから、心の手入れとは、心を変えることではありません。毎日のプラクティスを手入れすることです。
Seed becomes practice.(内側にまくタネが、いつものじぶんになる)
ことばは、心にまくタネです。毎日くり返すことばは、やがてプラクティスになります。
プラクティスは、いつものじぶんになります。そして、そのいつものじぶんが、崩れたときに戻る場所になります。
育つのは、そのことばで生きているじぶんです。
レジリエンスとは、「折れない」ことではありません。
戻る場所を、毎日のプラクティスで育てることなのです。
作(文・挿絵・声に出すことば・声):坂口立考
出典・参照:以下のエンパレットノートなど
(*注1)メンタル不調は、「嫌な出来事があったから落ち込む」という単純な因果だけでは説明できません。「学校で嫌なことがあった」「仕事で失敗した」という出来事と、「落ち込んだ」という結果の間には、身体反応、情動、意味づけ、自分に向けることばなど、多くの過程があります。そして、それらは一度きりではなく、毎日くり返される「いつものプラクティス」として積み重なっています。メンタル不調が減らない理由の一つは、出来事ばかりに目が向き、その間にある原因構造が見えにくいことにあります。
既存の相談窓口や質問票、研修などの多くは、何らかの兆候が現れた後に働きかける仕組みです。一方、その手前には、本人がふだんから自分の状態を映し、昨日と今日を比べ、小さな変化に気づくというプラクティスがあります。この「戻る力」を育てる毎日のプラクティスがなければ、支援の仕組みが整っていても、自分の状態をことばにし、助けを求めるところまで辿り着きにくくなります。レジリエンスとは、出来事そのものを変えることではなく、その間にある「いつものプラクティス」を手入れし、崩れても戻れる力を育てる考え方です。
いつものじぶんに戻る力を育てる|Resilience
⚫︎ 「折れない・負けない・あきらめない」とは?|レジリエンス ①
⚫︎ 「メンタルが弱いか、弱いか」ではない|レジリエンス ②
⚫︎ 勝者は、敗者の自覚から|レジリエンス ③
⚫︎ いつものじぶんをつくる|レジリエンス ④
⚫︎ 心の免疫力をつくる|レジリエンス ⑤
⚫︎ いのちある限り、回復できる|レジリエンス ⑥
⚫︎ 心をしなやかにする手入れ|レジリエンス ⑦
Resilience シリーズ(まとめ)

「折れない・負けない・あきらめない」とは?|レジリエンス ①
折れない、負けない、あきらめない。すべて結果をあらわすことばです。私たちは、その結果を先に掲げ、そこへ向かおうとします。でも、順序は逆です。レジリエンスとは、崩れないことではなく、崩れたところから、ふだんのじぶんへ戻る力です。必要なのは、戻るためのプラクティスです。かんばることばの前に、まず戻ることばを持つことです。
「メンタルが強いか、弱いか」ではない|レジリエンス ②
「メンタルが強い」とは、勝敗という結果だけを評した比喩にすぎない。勝てば強いと言われ、負ければ弱いと言われる。結果から原因がつくられ、負けた者は弱い人にされてしまう。だが脳には攻めると避けるの二つのモードしかなく、日々のプラクティスがその切り替えを左右する。育てるべきは強いメンタルではなく、立ち直るプラクティスである。
勝者は、敗者の自覚から|レジリエンス ③
敗北のあと、「相手が強かった」「経験不足だった」と結果を説明します。けれど、次を変える原因は、試合の前、プラクティスにあります。敗者になるとは、自分を責めることではなく、今までのプラクティスでは届かなかったと引き受けること。そこから、いつものプラクティスに戻り、また挑戦する。続けているかぎり、敗者のままではありません。
いつものじぶんをつくる|レジリエンス ④
「プレッシャーに負けた」ということばを、よく耳にします。でも、プレッシャーの中で現れるのは、特別なじぶんではなく、いつものじぶんです。プレッシャーが原因だと思うと、「もっとがんばれ」「ここで力を出せ」とじぶんを追い込みます。プレッシャーの中で必要なのは、特別なじぶんになることではなく、いつものじぶんに戻ることです。
心の免疫力をつくる|レジリエンス ⑤
レジリエンスとは、心の回復力です。元気を取り戻せること。人間には本来、傷を癒し、疲れを回復する自然治癒力が備わっています。心も同じで、脳だけでなく、食事、睡眠、運動、免疫、腸内細菌など身体全体が支えています。笑う、感謝する、耳を傾ける、人とつながるといった日々のプラクティスが、その回復力を育て、心の免疫力をつくります。
いのちある限り、回復する|レジリエンス ⑥
医師から何度も「今日かもしれない、明日かもしれない」と告げられながら、95歳のカズコさんは今日もリハビリを続けます。回復とは、昔の身体に戻ることではありません。変わっていく身体で、いつものじぶんに戻ること。人は寿命を迎えるその時まで、回復する力をもち続けています。レジリエンスとは、そのいのちの働きです。
心をしなやかにする手入れ|レジリエンス ⑦
草木は、風が吹いた時に身体をしなやかにさせています。風を止めることはできません。人間もおなじです。ストレスをなくすことはできません。だから大切なのは崩れないことではなく、戻れるじぶんを育てること。ことば、呼吸、姿勢──毎日のプラクティスが、いつものじぶんをつくります。心の手入れとは、毎日戻る場所を育てることなのです。
