
You can’t add the foundation later.(後から土台を付け足すわけにはいかない)
大きな鍋で、豚骨が、ぐつぐつと煮えています。
火は、朝からではありません。前の日の夜から、一度も落とされていません。
骨が崩れ、脂が溶け出し、スープが少しずつ、白く濁っていく。
この白い濁りは、材料ではありません。骨を煮込む、という行為そのものが、かたちを変えたものです。
もし、あとから「もっと骨の味がほしい」と思ったら、どうでしょうか。
骨から取った、上質なとんこつダシを、あとから注ぐことはできます。
けれども、それは、はじめからこの鍋で骨を煮込んでいたことには、なりません。
注げるのは、味です。
注げないのは、過程です。
このスープのダシは、味だけではありません。
骨を煮込んだ、その時間まで含んでいます。
If you don’t do it now, you can’t do it over. (今やらないことを、やり直すことはできない)
プラクティスも同じです。
今日しなかった練習を、明日2回すれば取り戻せる。そう思うことがあります。
けれども、明日の2回は、今日と明日の2回ではありません。どちらも、明日の時間にした練習です。
今日の身体、今日の気分、今日の声は、もうそこにはありません。
過ぎた時間は、もとには戻りません。
けれども、それだけでは、まだ話の半分です。
「やった」か「やらなかった」か。それだけの違いに見えるかもしれません。でも実は、1回することの意味は、その1回だけにとどまりません。
一度、声に出すと、その声が耳に戻ってきます。
もう一度、声にすると、前との違いが生まれます。
違いが生まれると、次のふるまいが変わります。
1回目が、二回目の原因になります。
2回目には、すでに1回目が入っています。
したことが、次にすることの中に戻ってくる。
プラクティスは、再帰しながら育っていきます。
けれども、一度もしなければ、戻ってくるものがありません。
だから、「今日、一回する」ということは、今日の1回分の話ではないのです。そこから続いていく、次のすべての回の始まりです。
やらなかった1回は、やり直せません。
あとから始めることはできても、過去に戻って最初の1回を加えることはできないからです。
後から、ダシは入れられない。
後から、最初の1回は入れられない。
⚫︎ 鏡の前に立たなければ、じぶんの姿は映らない|First Things First ⑤ 認知には法則がある へ続く(明日配信)
作(文・挿絵・声に出すことば・声):坂口立考
出典・参照:以下のエンパレットノート
(*注)不可逆とは、同じ結果に、もう一度たどり着けないという意味ではありません。別のやり方で、同じ場所に近づくことはできます。不可逆とは、あの時、あの条件で、あの順序で起きたという、その一回性そのものが、二度と繰り返せないということです。
「First Things First シリーズ」:
⚫︎ 歩ける前に走れない|First Things First ① ものごとには順序がある
⚫︎ 屋根から家は建てられない|First Things First ② ものごとには構造がある
⚫︎ タネをまかずに実はならない|First Things First ③ ものごとには因果がある
⚫︎ あとからダシは入れられない|First Things First ④ ものごとには不可逆がある
⚫︎ 鏡の前に立たなければ、じぶんの姿は映らない|First Things First ⑤ 認知には法則がある
⚫︎ 上達に迂回路はない|First Things First ⑥ プラクティスには法則がある
⚫︎ 他人の結果はまねられない。原因をまねよ。|First Things First ⑦ プラクティスには絶対原則がある
