Stay focused for two minutes.(2分、集中して)
いますれば、やり直せる (何度でも)で紹介したセリフです。
このエンパレットをみる前に、以下の動画(2分半)を見て、試してみてください。
順にくりかえし聞くだけで、変化が感じられ、気づいたことがあるでしょう。
このセリフは、間も入れて3.5秒に19音節(46音素)あります。
13音素/秒です。
人間が1秒間に聞き分けられる音の数は、10個と言われます。(*注1)
100ミリ秒(0.1秒)にひとつの音。
ということは、このセリフは、人間の聴覚能力を超えているのです!
動画のセリフを試した方から、このようなお便りがありました。
「まとまりで聞こうとすることで、大きな変化が感じられました!でも、willは、テクストがでてくるまで聞き取れず。」
toの音は、50ミリ秒。willも100ミリ秒以下です。
つまり、そもそも、聞き取れないはずの音の「短さ」なのです。
実は、日常の会話は「人間が意識して捉えられる範囲を超えて」聞き取っているのです。
不思議ですよね。では、一体どうやって、やりとりしているのでしょうか?
You have the amazing power.(じぶんには驚くべき力が備わっている)
意識してやろうとしても、間に合いません。
といっても、驚くことはありません。
私たちは、ふだん、意識せずに、身体を高速で動かすことができるのですから。
言語能力とは、まず、運動能力です。
その能力は、だれもが備え持っています。
運動能力は、ある強度をもった運動によって獲得されるものです。
聞き取る運動能力は、声を出して話すという運動によって培われます。
意識では捉えられないはずの音を捉えられる理由は?
それは、ワーキングメモリが音をまとまり(チャンク)で捉えて処理しているからです。小分けにして処理しやすい単位に変えているのです。
この働きは、チャンキング(Chunking)と呼ばれます。
「覚える」とは、いきなり、また、バラバラに長期記憶されるのではありません。
チャンクでとりあえず記憶し、その言語単位で発話することによって、チャンクどうしの結びつきが強まり、定着していきます。
人間には、ことばを一から組み立てる生成能力がある、と考えられています。
その一方で、つながりをもった中間素材(チャンク)を準備しておき、レゴのように組み立てることによって処理効率をあげています。
また、記憶の定着、有効活用、知識のネットワーク化をしているのです。
よく使われる発話表現は、セリフがひとつのまとまり(チャンク)になります。
ひとつの表現の中にも、あるまとまりのフレーズがチャンクになります。(*注2)
心の中に、ことばのネットワークが創造されていく時、チャンクどうしの結合が無数にできていくわけです。
物質を構成する原子がバラバラではなく、結合しあって存在するのとおなじように、
単語や音節も、バラバラに、心の中に存在するのではありません。
つながりをもっています。
存在すると言いましたが、もちろん、文字や音が直接、脳に刻まれるわけでありません。(*注3)
では、ことばを身につけるという時、一体、何を身につけているのでしょうか?
それは、まとまりをつくったり、それらをつないだり、引き出したり、組み立てたりする「処理能力」です。
それは、ことばとして出し入れする「運動能力」がベースになります。(*注4)
そして、ことばがつながりあい、ぼんやりながらも、じぶんの中に存在しているように感じられることが、心の働きです。
意識せずにできるような、身体で覚えるふるまいによって、心の働きがつくりだされます。
さて、この動画のセリフについての補足をしましょう。
10回のくりかえしがあります。
毎回、以下のような、ヒントがあります。
(1)いきなり出てくる
(2)セリフに間あいが入っている
(3)セリフを半分ずつ、色粒表現をそえて
(4)さらに、まとまりごとにポーズ
(5)スピードを50%落として
(6)セリフの意味、情景イメージ
(7)セリフ+色粒表現、くりかえし
(8)セリフの解析(3秒のセリフ)
(9)セリフ、まとまりごとにポーズおよび視覚表現
(10)もういちどくりかえし
きっと、この3分、かなり集中していたのではないでしょうか。
ひとつのことに集中して、適度な間合いをもって、続け様にくりかえし聞いていった結果。
ネーティブスピーカーでも、ふだんこのような現象が起きているということを、目で見る機会はほとんどありません。
ほんの3分で、変化があったのです。
じぶんひとりで気づくことは、上達のプロセスにほかなりません。
この3分で、何も教えられずにできたことがあるということは、次の3分では、もっとできることがあるわけですね。
このエンパレットシリーズは、どんな言語の習得にも共通な、「ことばを身につける」ことが、どういうことかについてお話しました。
学びについて、よくこんなことが言われます。
(A) 身体で覚えよ
(B) 反復せよ
(C) 継続せよ
心得は大切です。
でも、一体「何を」「どのように」プラクティスするのかが、明らかではありません。
言語の習得は、ひと息、2秒ほどのセリフをアウトプットすることに集約されるといっても過言ではありません。
それは、想定目標を持つことであり、比較対象を持つことです。
比べない限り、気づきようがありません。
また、ものさし単位をもってプラクティスしない限り、変化がわかりません。
ものさしをもって、くりかえし、ふりかえり、わかちあうこと。
そのふるまい(心身による処理・運動能力)を養い、高めることです。
英プラは、英語の習得に深く踏み込んで、ここに書かれていることが、実際のプラクティスでできるように導き、手助けするものです。
科学的に理にかなうことを、現実的な実践にするためには、心得とかけ声だけでも、闇雲な努力でも足りません。
ぜひ、エンパシームを活用してください。
エンパシームを使うこと自体がプラクティスになっています。
みんながおなじものさしをつかい、おなじプラクティスを共有できるコミュニティに、いつでも入れます。
英語習得の最大のボトルネックを克服する「2秒」(おなじセリフを使いつつ、かみくだいて解説する動画です)
ことばを身につける ② 「処理することを学ぶ、処理したものだけが身につく」」
ことばを身につける ③ 「運動のトレーニングとおなじように適度の強度が必須」
ことばを身につける ④ 「心の(ことばの)ものさしをつくる」
出典・参照:英語トレイル1 (8) Do it now.以下のエンパレットなど
(*注1) Morten H. Christiansen, Nick Chater 『The Now-or-Never Bottleneck: A Fundamental Constraint on Language』
(*注2) Lexical Phrase (語彙フレーズ)と呼ばれます。”have time to do” といった頻度高く使われるパターン。英プラは、2520のセリフ(そのうち、1000の対セット)のひとつひとつの中に、語彙フレーズが含まれています。100の例文をただ暗記する「足し算」では応用がききません。100のフレーズ、チャンクが結び合って、いわば「かけ算」になることが、ことばを身につけることです。
James Nattinger & Jeanette DeCarrico 『Lexical Phrases and Language Teaching』
(*注3)前頭葉中の一領域は、。先駆者であるポール・ブローカの名にちなんで、ブローカ野と名づけられています。彼のことばにも、こうあります。「単語の記憶ではなく、発語に必要な運動の記憶である。」
(*注4) to do it のような、最も頻度の高い単語は、音節がひとつで音が極めて短く、それらがチャンクを構成します。脳波を使った実験により、こうしたチャンクを捉える速度が言語能力(自動性・流暢性)に最もインパクトが高いことが明らかにされています。
Norman Segalowitz 『Cognitive Bases of Second Language Fluency』
門田修平『英語のメンタルレキシコン』、『シャドーイング・音読と英語習得の科学』
「話せない・聞こえない・使えない」英語の克服と上達のカギはひとつ