Empathemian『Self-Agency-Reflect』

Rushing gets in the way.(先を急ぐグセが、自省の妨げ)

「つい、先を急ぐ」クセがあります。

そう言われても、ピンとこないかもしれません。

⚪︎別に急いでいない。
⚪︎あわててもいない。
⚪︎落ち着いてやっている。

そう思うでしょう。
でも、「急ぐ」は、あわてることだけではありません。

私たちは、小さいころから、速くできることをよいこととして身につけてきました。

⚪︎問題を速く解く。
⚪︎早く答えを出す。
⚪︎たくさんこなす。
⚪︎すぐに理解する。
⚪︎手際よく終わらせる。

「頭の回転が速い」「仕事が速い」「飲み込みが速い」。どれも、ほめことばです。

反対に、時間がかかることは、どこかよくないことのように感じます。そのため、特に急いでいるつもりがなくても、私たちは無意識のうちに、先へ、先へと進もうとします。

いま読んでいる、この文章でもそうかもしれません。

⚪︎早く要点をつかもうとする。
⚪︎知っているところは飛ばす。
⚪︎斜めに読んで、先へ進む。
⚪︎「つまり、こういうことでしょ」と、わかったところで次へ行く。

読むだけなら、それで役に立つこともあります。

でも、プラクティスでは、ここに落とし穴があります。
身につけることは、早く終わらせることではないからです。

⚫︎一度やって、次へ進む。
⚫︎わかったら、次へ進む。
⚫︎できたと思ったら、次へ進む。

それでは、体験が十分に残らないまま、次の体験で上書きされていきます。

身につくには、同じことをくり返す必要があります。くり返す中で、少しずつ重みがつき、やがて、考えなくてもできるところまで定着していきます。

だから、プラクティスでは「どれだけ速く先へ進んだか」ではなく、「いまやったことに、もう一度戻れるか」が大切です。(*注1)

Listen to your voice. (じぶんの声を聞く)

いったん、戻ります。

じぶんの声は、話している最中にも聞こえています。

でも、その時は、聞くことだけをしているわけではありません。ことばを思い出す。声を出す。口や舌を動かす。呼吸する。次の声へ進む。そのすべてをしながら、同時にじぶんの声も聞いています。

だから、「聞こえていた」ことと、「じぶんの声を聞いた」ことは、同じではありません。

録音した声を聞き直す時には、もう声を出す必要はありません。今度は、さっきじぶんが出した声だけに耳を向けることができます。

すると、話している時には気づかなかったことが聞こえてきます。

⚫︎こんな声だったのか。
⚫︎ここで間があいていたのか。
⚫︎思っていたより短かった。
⚫︎こんなふうに言っていたのか。

じぶんの声を聞き直すとは、単に録音を再生することではありません。

さっきは「する側」にいたじぶんが、今度は「受け取る側」にまわることです。(*注2)

この一往復によって、じぶんのふるまいが、じぶんにも見えるものになります。

Compare the two. (お手本とじぶんを比べる)

じぶんの声を聞き直すことで、さっきのじぶんに戻ることができます。
でも、ひとつだけでは、わかることに限りがあります。

人は、何かと比べることで、違いを捉えます。

⚪︎同じか、違うか。
⚪︎長いか、短いか。
⚪︎速いか、遅いか。
⚪︎強いか、弱いか。

私たちは、何かをそれだけで捉えるだけでなく、別のものとの違いによって捉えています。

しかも、比べるなら、その場で比べることです。

時間がたつと、さっき見たもの、聞いたものは、少しずつ「こんな感じだった」という記憶になります。その場で二つを行き来すれば、記憶の中の印象ではなく、いま受け取っているもの同士を比べられます。

⚫︎一度では、はっきりしない。
⚫︎もう一度比べる。
⚫︎また戻る。

そうしているうちに、「なんとなく違う」が、「ここが違う」に変わっていきます。

比べている二つは、何も変わっていません。変わるのは、じぶんが捉えられる違いです。

比べるとは、優劣をつけることではありません。正しい、間違っていると判定することでもありません。

その場で行き来しながら、違いをじぶんで捉えることです。違いが見えれば、じぶんがしたことを、もう少し具体的にふりかえられます。

そして、その気づきを、次の一回に使うことができます。

Try it once more.(もう一度、やってみる)

まとめ

❶ 先を急がず、いったん戻る

❷ じぶんの声を、聞き直す

❸ その場で比べ、違いを捉える

❹ 気づいたことを、次の一回に使う

作(文・挿絵・声に出すことば・声):坂口立考
出典・参照:以下のエンパレットノートなど

(*注1) エンパシームの英語耳°トレイルでは、プラクティス「えんじる」の「はじめ」と「おわり」に円を描きます。ひと息(4秒ほど)かけて、ゆっくりと円を描く小さな動作です。ところが、これまでのプラクティスデータを見ると、ほとんどの人が円をさっと描き、また「おわり」の円を「はじめ」の円より速く描く傾向があります。終わりが見えた瞬間、次へ進もうとする。本人は急いでいるつもりがなくても、「早く終える」というふるまいが現れます。

たったひとつの円から、何がわかるのか?と思うかもしれません。でも、こうした小さな動作にこそ、無意識のクセは現れます。ひとつひとつのふるまいに、「早く済ませて、次へ」という傾向が入り込んでいるのです。現代のスマホ・ネット・AI社会では、この傾向はますます強まります。大量の情報を次々に受け取り、すばやく要点をつかみ、先へ進む。その一方で、立ち止まり、ふりかえり、見直し、もう一度やってみる時間は抜け落ちやすくなります。

(*注2) 発話している時にも、私たちはじぶんの声を聞いています。ただし、その時の脳は、声をつくりながら、その声を聞き、次の発話へ進み、必要に応じて調整するという複数の処理を同時にしています。録音された声をあとから聞く時には、発話そのものをする必要がありません。「声をつくりながら聞く」状態から、「すでに出した声を聞く」状態に変わるため、同じ声でも、発話中には拾えなかった特徴に注意を向けやすくなります。

「録音すると客観視できる」というより、発話する時と聞き直す時では、じぶんの声に向けられる注意と認知の役割が違う、と考えたほうがよいでしょう。「客観的」とは、外側から見ることです。じぶんの声を聞くことは、内側から見ることです。音の調整だけでなく、「じぶんが何をどう言ったか」を確かめる自己モニタリングです。また、じぶんの声をもう一度受け取ることは、直前のじぶんのふるまいを、別の条件で思い出し、もう一度経験することでもあります。

(注3) 英語耳°トレイルでは、お手本とじぶんの声を、音声だけでなく「リズムミラー」に映して比べます。話した声の流れを、音節ごとの色粒の列として時間にそって動的に再現し、お手本とじぶんを並べて見ることができます。

話し声は、聞いたそばから消えていきます。お手本とじぶんの声を交互に聞くだけでなく、音の長さやまとまりを同じ時間軸の上に残して見比べることで、「ここが長い」「ここが短い」「このまとまりが違う」と、耳だけでは捉えにくかった差にも気づく手がかりが生まれます。リズムミラーは、声を採点するためのものではありません。聞く、見る、もう一度聞く。その往復によって、じぶんでは気づかなかった違いを、じぶんで見つけるための鏡です。

じぶんを動かすしくみ|Self-Agency 7つの実践

⚫︎じぶんを動かすしくみ|Self-Agency ① 自発(はじめる)
⚫︎じぶんを動かすしくみ|Self-Agency ② 自助(じぶんを助ける)
⚫︎じぶんを動かすしくみ|Self-Agency ③ 自信(やってみる)
⚫︎じぶんを動かすしくみ|Self-Agency ④ 自省(ふりかえる)
⚫︎じぶんを動かすしくみ|Self-Agency ⑤ 自問(問いを持つ)
⚫︎じぶんを動かすしくみ|Self-Agency ⑥ 自覚(じぶんに気づく)
⚫︎じぶんを動かすしくみ|Self-Agency ⑦ 自走(明日につなぐ)