Woman with dark hair in a white blouse sits at a wooden desk by a sunlit window, writing in a notebook with a desk lamp nearby.
Empathemian『Unlearning』

You can sit because there is a chair. (椅子があるからすわれる)

「おかげさまです。」
よく使うことばです。

「お元気ですか?」
「おかげさまで。」

「うまくいきましたね。」
「おかげさまです。」

「おかげさま」は、だれかに助けてもらった時だけに使うことばではありません。特に何かをしてもらったわけではなくても、「おかげさまで」と言います。じぶん一人の力ではなく、相手の助けや目に見えない力のおかげで物事がうまくいったことへ感謝を表すことばです。

考えてみると、不思議なことばです。

私たちは、何かができると、「じぶんがやった」と思います。

⚪︎じぶんが歩いた。
⚪︎じぶんが話した。
⚪︎じぶんが考えた。
⚪︎じぶんが獲得した。
⚪︎じぶんが成し遂げた。

もちろん、じぶんがしたことです。でも、本当に、じぶんだけでしたのでしょうか。

You didn’t do it alone. (ひとりでやったわけではない)

⚫︎道がなければ、そこを歩くことはできません。
⚫︎階段がなければ、そのように登ることはできません。
⚫︎紙とペンがなければ、ことばを書きつけられません。
⚫︎空気がなければ、声を出すことさえできません。
⚫︎静かな場所でなければ、長く集中を保てません。

私たちは、じぶんの力でしていることに目を向けます。でも、その行為を可能にしているものには、なかなか目を向けません。

できたことだけを見ると、その原因もじぶんの中にあるように見えるからです。

⚪︎意志が強かったから、続けられた。
⚪︎能力があったから、できた。
⚪︎努力したから、うまくいった。

すると、できなかった時には、反対のことを考えます。

⚫︎意志が弱かった。
⚫︎能力が足りなかった。
⚫︎努力が足りなかった。

でも、原因は、本当にじぶんの中だけにあるのでしょうか。

Pastoral landscape: a winding dirt path through a sunlit meadow with wildflowers, rolling hills, and trees under a bright sky.
Empathemian『Unlearning』

You are not the only cause.(じぶんだけの力ではない)

道を歩いている時、歩いているのはじぶんです。

でも、道がなければ、同じようには歩けません。足を置ける地面があり、進む方向があり、道が先へ続いている。その環境が、歩くという行為を可能にしています。(*注1)

歩いているのはじぶん。でも、歩けることのすべてが、じぶんの中にあるわけではありません。

⚪︎すわる場所があるから、落ち着ける。
⚪︎手本があるから、まねられる。
⚪︎相手がいるから、話せる。
⚪︎道具があるから、試せる。
⚪︎しくみがあるから、続けられる。

じぶんがしている。でも、じぶんだけでしているのではありません。

「おかげさま」は、じぶんの努力を小さくすることばではありません。
じぶんだけを原因にしないことばです。

何かができた時、「じぶんがやった」で終わらずに、何がそれをできるようにしてくれたのかを見てみる。

人だけではありません。
もの、場所、時間、ことば、道具、自然、しくみ。
ふだんは背景に隠れているものが、じぶんの行為を支えています。

「おかげさまです。」

そう声に出すと、じぶんだけを見ていた目が、じぶんのまわりへと広がります。

What made it possible?(何のおかげ?)

「おかげさま」と声に出すことは、感謝を表すだけではありません。

「じぶんが原因」という見方をいったん外して、何がこの行為を可能にしたのかを見つけ直すプラクティスです。

あたりまえにあるものは、見えなくなります。
いつも使っているもの、いつもいる人、いつもある場所。それらが、じぶんの行為を可能にしていることを忘れてしまいます。

だから、問い直します。

What are you taking for granted?(あたりまえだと思っていることは?)

作(文・挿絵・声に出すことば・声):坂口立考
出典・参照:以下のエンパレットノートなど

(*注1) 「環境が生きものの活動を誘い、可能にする性質」を、心理学者ジェームズ・J・ギブソンは「アフォーダンス(affordance)」と名づけました。affordは「与える、できるようにする」という意味です。椅子はすわることを、階段は登ることを、トレイルは歩くことをアフォードします。その状態、その環境、そのものがあるから、できる。アフォーダンスという見方は、「行為の原因はじぶんの中にある」という一方向の見方を反転させ、じぶんと環境との関係の中で行為を捉え直します。

暗黙の前提を入れ替える原理|Unlearning シリーズ(7回)

⚫︎話は逆です(結果を原因と思い込むクセ)|Unlearning ①
⚫︎答えは内側にある(答えを外に探すクセ)|Unlearning ②
⚫︎〇〇なんてものはない(概念を実体だと思い込むクセ)|Unlearning ③
⚫︎ 引き算せよ(足りないから足すと思い込むクセ)|Unlearning ④ 
⚫︎ おかげさまです(自分だけが原因だと思い込むクセ)|Unlearning ⑤
⚫︎ トライするから変わる(やる前に結論を決めつけるクセ)|Unlearning ⑥
⚫︎ 他人事ではない(自分には無関係と思い込むクセ)|Unlearning ⑦