
Voice resonates over time. (声は時をかけて響いてくる)
あの日、だいぶ雨が強くなっていました。
トンネルを過ぎたあたりの下り道。
突然、前の車はグラグラっと揺れたかと思うと、山側の法面にのりあげ、反転しました。
ガードレールに激突してルーフが吹き飛び、その上を横に回転しながら宙を舞いました。
橋の欄干の上に、綱渡りのようにゆらゆらと乗った瞬間、車は沢へ真っ逆さまに転落しました。
大切な友人が乗っていました。
雨の日に車に乗ると、脳裏に焼きついた一連の光景が蘇ってくることがありました。
「十字架を背負って生きるのよ。」
母のことばは、いつも私の心にありました。
長い間、「重荷を克服して生きる」という励ましに聞こえていました。
30年がたち、ようやく、あの日のことを書きました。書いて、描いてみると、ずっと脳裏にあった光景を、じぶんの外に置くことができました。
それから10年。毎日エンパシームに声を残し、エンパレットノートを書いてきました。
じぶんが出した声を聞き直す。
じぶんが描いた絵を見つめる。
じぶんが書いた文章を読み直す。
You’re not alone.(ひとりで生きているのではない)
十字架とは、重荷を担ぐことではありませんでした。
母もまた、いくつもの悲しみを生きてきた人でした。
そのことに気づいて、ことばの聞こえ方が変わりました。
克服するとは、がんばって乗り越えることではなかった。
じぶん自身の声に耳を傾けることでした。
もっと、やさしいことばをかけてくれていたのです。
じぶんに向けて表現する。
それは人に見せる作品でなくてよい。
じぶんとわかちあうのです。
耳に従って生きれば、ことばは時をかけて熟し、響きが感じられるようになる。
いまは、雨の日にも、心静かに思い出すことができます。
作(文・挿絵・声に出すことば・動画・声):坂口立考
出典・参照:坂口立考エッセイ『2016 らせん源流をさかのぼる』、Movie World of Empatheme series. 以下のエンパレットノートなど
