Empathemian『What it takes to sense』

「ほんの微かにガスの匂いがするんです。もう一度調べてください。」とユキさん。

ガス会社のガス漏れ検知サービスの係員さんは、答えます。 「うーん、何もないですよ。この計測器は、100万分の1の単位でわかるんだけどね。どこにあてても、ゼロ。ほらね。」

乾燥機を回して、止めて、もう一度回してみます。

ユキさんは、落ち着いて、ひと息ゆっくりと吸いこみます。

「あ、ほら。いま、臭った。」

係員さんは、もう一度、乾燥機につながるガス管づたいに計測器の先をあてていきます。

「あ、ほんとだ。計測器の数字が動いた。」

ガスの管の周りにシュッと泡の出る水を吹きかけると、わずかにプクプクと細かい泡がでた場所がひとつありました!自転車のタイヤがパンクした時に、チューブを水の中につけていると、穴のあいたところにブクブクと水泡がでますね。あれとおなじ方法です。

もともと、天然のガスには、色もにおいもありません。
が、家庭で使うガスには、においがつけられています。ガス漏れしたらわかるように、付臭されているのです。

臭いの元(odorant)は、Mercaptanという化合物で、硫黄が含まれています。
ガスの匂いは、硫黄の匂いなのですね。人間の嗅覚は、100万分1の濃度のMercaptan分子を感知できるそうです。

「しない力」では、アリストテレスのことばを紹介しました。

What it lies in our power to do, it lies in our power not to do.(何かをする力は、何かをしない力にある)

「何かをしない力」とは、たとえば、このことです。

ほかのことは何もしないで、静かに、ひと息の「間」をいれて、本来備わった力が働いたのです。
それも100万分の1という小さな単位の、目に見えない力。

100万分の1の単位のことを「マイクロ」と呼びますが、これはまさに、ふだんは「見えない・聞こえない・触れない・味わえないもの」を、ほんの一瞬にして探り出す、ユキさんの「マイクロアクション」でした。

何かをしない力。
ふだんは気づかないでいる大切な力。
ひと息の間をいれることで、それが自然に発揮されたのです。

Slow down.(ゆっくり)
Calm down.(おちついて)
It all comes down to a small moment.(すべては、ひと息の間に)

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出典・参照:BrainQuote.com、以下のエンパレットなど

道具のおかげで共に考えられる

だれにでも見えないものが見える [排水管からのヒント]

蓄音機と人間の不思議②(ことばはふりかえるから内面化する)

It lies in our power not to do.