Empathemian『That’s the thing.』

That’s the thing.(まさにそれ)

英語で最もよく使われる単語は何でしょうか?

書きことばなら、the。(*注1)
話しことばなら、I または、You。(*注2)

「英語では、名詞にaとか、theがつきます」
「英文法」でいちばんはじめに出てくる「冠詞」

ついたり、つかなかったり。
日本語にはないので、むずかしいですね。

母語は、感覚的に身につけているので、どちらをつけるかなどと考えながら話すことはありません。
日本語でも、「てにをは」も、微妙なニュアンスも自然に出てきます。(*注3)

このエンパレットは、その文法の説明ではありません。
ふだん気づいていない、意外なお話です。

冠詞。
頭にくっつけることば。

名詞の前にしるしをつけて、種類を特定する。
なぜ、くっつける?

「こんな説明はあるけれど、そもそも」

It’s a movie.(それ、映画だよ)
That’s the movie.(それが、話題の映画だよ)

上の文をよく見てください。
何か気づきませんか?

「名詞につける」というけれど、aもtheも、名詞の前にでてきます。
声に出してみると?
aやtheを先に言いますよね。

aやtheはものの名前につく、と言われますが、実は反対です。
どう見ても、aやtheの後ろにものの名前がくっついています。

ことばは発声の順番にしか話せないし、書けません。
だから、文法の説明は時間を無視しています。
「後から時間をさかのぼってくっつける」なんて、現実にはありえない話です。

これはどういうことでしょう?
aとかtheというイメージや認識が先にあり、そのあとで、ものの名前を示すことばがつながるのです。

aやtheを発話するのにかかる時間は、ほんの一瞬です。
0.1秒ほどの長さしかありません。
0.1秒(100ミリ秒)以下は、意識では捉えられない時間です。

人間の聴覚は、100ミリ秒以下の単位を意識的に聞き分けることはできません。
aやtheは、無意識と意識の境目にあるわけです。

自然な会話ではaやtheを、つける、つけない、ということを考えながら話すことは、不可能です。
くりかえして身体感覚として覚えるものなのです。

文法の話は、現実の言語使用ではなく、書かれたものを修正したり、校正する時の話です。
ことばは、声を使った身体運動。
それを、頭の中でも(声を出さずに)考えたり、思い出したりするのに使っています。

無意識的な、身体に身についたふるまいがことばの姿。
文法は、現実の姿を物語る絶対のルールではなく、後から捉え直す時の工夫です。

常識的に言われることは、逆さまになっていることが多いのです。
なぜかというと、無意識的に身についている運動を、後から捉え直して説明しようとすると、現実に起こる時間を無視せざるをえないからです。
ひとつの方法にすぎないのです。

もちろん、文法の知識は役に立ちます。
が、その一方で、知識は現実の世界で使おうとしても間に合いません。

身体で覚える。
リズムとイメージが(無意識的に)結びつく。(*注4)
そのようにトライすることで、文法の知識が後から役立ちます。

出典・参照:英プラトレイル「ツボ」

話はさかさま [Rの音じゃなくて、運動中の音]

母音の秘密(「あいまい母音」ではなくて、運動中のカタチ)

音・リズムとセンスを身につける ルーティンプラクティス (3-8) That’s the thing.

(*注1)British National Corpus、Brown Corpus

(*注2)エンパシーム研究所『日常発話頻度・コーパス頻度分析』『英プラコーパス』

こちらのエンパレットに詳しい解説を掲載しています。ことばは寄りそいあう① [言語の本質はつながり]

映画のセリフで見ると、Topは、Iのものが半数、Youのものが半数。内容によって変わります。

(*注3)日本語で言えば「てにをは」は、感覚として身につけているのとおなじです。ちなみに、いちばん頻度の高いことばは「の」です。

国立国語研究所学術情報リポジトリ

(*注4)私たちの日常のことばも、「てにをは」を考えてから発話していませんね。考えるにしても、声にだして言ってみて感覚的に区別する、というかんじです。英語のネイティブスピーカーもおなじです。その場面ごとに状況、コンテクストがあり、無意識的イメージがあってことばが出てきます。後から説明することは可能ですが、現場はリアルタイム。身体が覚えている、としか言いようがありません。