Slow down.(いそがないで)
岸田衿子さんの詩集から「南の絵本」を。
いそがなくたっていいんだよ
オリイブ畑の 一ぽん一ぽん
オリイブの木が そう云っている
汽車に乗りおくれたら
ジプシイの横穴に 眠ってもいい
うさぎにも 馬にもなれなかったので
ろばは村に残って 荷物をはこんでいる
ゆっくり歩いて行けば
明日には間に合わなくても
来世の村にたどりつくだろう
葉書を出し忘れたら 歩いて届けてもいい
走っても 走っても オリイブ畑は
つきないのだから
いそがなくてもいいんだよ
種をまく人のあるく速度で
あるいてゆけばいい
* * *
大切な「声ことば」の種をまく人は、じぶん。
ありのままの、何もないそのままの、じぶんの、ふるまい。
それだけが、じぶんの本当のみちをつくる。
いそがないでもいいんだよ。
小さく、みじかく、ゆっくりと
やわらぐふるまいで、その場をおこすと、
ゆだねるひととき が生まれる。
その時、じぶんに寄り添うことばを出して
あとから、そっと すくって
たどってみる。
大切なのは、ゆっくりしっかり歩くこと。
オリイブの実をひとつぶ食べるときに、
思い出して、ひとこと、言ってみると、
オリイブの味わいがあるかもしれません。
いそがなくてもいいんだよ、と。
Let it happen.(いま起きていることによりそって)
出典・参照:岸田衿子『いそがなくてもいいんだよ』「南の絵本」、以下のエンパレットなど