Empathemian, Portland, Oregon

木下清一郎は、「心の働きの原理」について、このように説きました。

「心の世界の基本原理は「自己回帰」とそれに由来する「抽象作用」である。心の体系がつくられるには、何よりも情報が流れ去ることなく、系のなかにとどまることが必要である。これが情報の自己回帰運動であり、それは記憶の働きとしてあらわれる。記憶に先立って照合のための想起があり、その結果をふたたび新しい記憶として記銘するという一連の循環の過程からなりたっている。つまり、情報の自己回帰。

自己回帰という閉じた回路をもつことは、情報が循環して自分自身に言及することを可能にし、それによって本来なら流れさるはずの情報をひとつの場に閉じ込めて、そこで統合を果たすきっかけをつくったといえる。これが、基本原理としての抽象である。

それでは心の世界の基本原理として自己回帰のみで十分か。否。自己回帰だけが空転しただけでは、単に均一な表象が無数に複製されるだけで、ほかに何も生まれてこない。自己回帰は単なるきっかけであって、自己回帰と共役する何ものか、つまりこの循環を発展の契機に変える何ものかが、どうしてもここに付けくわわらねばならない。」

ソクラテス、プラトンは、こう言いました。

おどろきの心こそ、知恵を愛し求める者の心。

愛知(Philosophia)の始まりはこれより他にない。

こころの現象と、人間の英知の営みが無縁であるはずはありません。新しいひらめきには、驚きがいります。想定内のぐるぐる回路から、飛び出す瞬間がいるということですね。また、それを心につなぎとめておくから、また新しい出逢いが生まれるのです。

タウマイゼン(おどろき)に、心をひらいて

出典:木下清一郎『心の起源』、プラトン『テアイテトス』