Empathemian 『紙芝居の思い出・青の洞門』

Which scene echoes vividly in your memory?

絵に描けるほど、目に焼きついているシーン。
声がきこえてくるような思い出。

そう聞かれたら、何が思い浮かびますか?

私は、ある紙芝居です。

その日は、天神講てんじんこうの集まりでした。
小学校にあがる直前の、うららかな春の日。

天神講は、天神さま、菅原道眞のおまつりです。
同じ地区のこどもが、年長の小学生の家に集ります。
10人の小さな集い。
丸一日、遊んで過ごすので。

天神さまへのごあいさつ。
さあ、さっそく遊びます。
そのいちばんはじめが、紙芝居でした。

ひとりでトンネルを掘り続けた僧、了海りょうかいの話でした。
危険な岩壁を、のみ一本で掘り進むのです。
来る日も来る日も、休むことなく。

語りにすっかり引き込まれていました。
じぶんも、了海になっています。

青の洞門(あおのどうもん)という話です。
小学生になって、そこは小説『恩讐の彼方に』の舞台、耶馬渓(やばけい)であることを知りました。

了海は、ある若者に出会います。
彼は、遠い昔、自分が起こした事件で、仇討ちにきたのでした。

自分を切らせる覚悟のまま、洞門が開通するまで全力で働きました。
そして、じぶんの命を差し出します。

了海は、二重に命をかけていだのです。
了海の心に打たれた若者は、仇討ちをやめ、了海にすがって号泣するのでした。

いまでも、紙芝居の声が聞こえてくるようです。
演じてくれた、五年生のお姉さんの声。
そして、海の色が蘇ってくるようです。

Your voice remembers you.(声が覚えている)

思い出は、声でよみがえります。
声と共に、絵もよみがえります。
じぶんが、なりきっていた了海の心がよみがえります。

出典・参照:菊池寛『怨讐の彼方に』、坂口立考『海の宮・エッセイ 了海になった日のこと』、以下のエンパレットなど

「想像の冒険 [実はいつも夢を生きている]」

「水の作法 [手のかたちが覚えている]」

「時のかけら [エンパシーム原初体験]」

「恩讐(おんしゅう)の彼方(かなた)に」