
道ゆく人よ、道が前にある、のではないんだよ。
歩くことで、はじめて、道ができるんだ。
前にむかって歩く。そして後ろを振り返る時、小道が見えるだろう。
そこにじぶんの足跡ができている。
ただ、その足跡をもう一度踏もうと思っても、それはできない。
アントニオ・マチャードの詩『Caminante』を訳してみました。
原文のスペイン語は、Caminante(道をゆく人)です。Traveller(旅人よ)、といった訳語があてられていますが、Caminoは道、Caminanteは、道を歩む人という意味です。
道ゆく人よ。それは、じぶんです。じぶん自身に語りかけています。
「その道とは、もう一度踏みたくても踏めない、たった一度の足跡のことだ」ということばには、切実な響きがあります。でも、「人生は一度きり、刻々と時間は過ぎ去る」という意味ではありません。
たしかに、過去の体験そのものをやり直すことはできないでしょう。そもそも、「過去」というものも、実はどこにもないのですから。
過去にもどるのではなくて、いつもあたらしく、後からさかのぼって足跡をつくっている。そう考えることもできます。
私たちは、思い出すことができます。想像することができます。心の中に、たくさんの人、たくさんの声、たくさんのことばが生きています。それは、「過去ー現在ー未来」という直線ではなく、刻々と生まれる瞬間でつながった、らせんのような道です。
じぶん自身が、caminante(歩む人)である。
じぶん自身が、camino (道)そのものである。
出典・参照::Antonio Machado 『Poesías Completas』、坂口立考『海の宮』エッセイ「マインドトレイル」、『毎プラガイド』