
Let the flaws show. (下手なところを、そのまま出す)
⚫︎ 転ぶことが、乗れるための条件|自転車の体験
だれもが知っています。
転ばないように教えてもらったから、乗れるようになったのではない。転びながら、じぶんで調節したから、乗れるようになった。
はじめて自転車に乗った時のことを思い出してみてください。
「前を見て」「ハンドルをまっすぐに」「しっかり漕いで」。
教えてもらったことは、どれも正しい。でも、それを知ったからといって、乗れるわけではありません。
じぶんで乗ってみる。ふらつく。足をつく。転ぶ。また乗る。
右に傾けば、わずかにハンドルを切る。切りすぎれば戻す。身体の傾き、腰の位置、ペダルを踏む力、視線、速度。その一つひとつを、じぶんが乗った結果にあわせて調節していきます。(*注1)
その調節を、だれかに代わってもらうことはできません。
転ばないように、ずっと後ろから支えてもらえば、転ばずにはすみます。でも、それでは、じぶんでバランスを取り戻す機会もなくなります。
転ぶことは、乗れるようになるまでに起きる、ただの失敗ではありません。
転ぶことが、乗れるようになるための条件なのです。
教わることと、身につくことの間には、じぶんでやって、うまくいかないという経験があります。
そこから、じぶんで調節する。
これが、プラクティスです。
⚫︎ 下手なじぶんを、そのまま出す
ところが、何かを身につけようとすると、私たちは反対のことをしがちです。
はじめから正しくやろうとする。間違えないようにする。下手なところを直してから出そうとする。
でも、自転車ではそんなことはできませんでした。
ふらつかないようになってから、自転車に乗ったのではありません。ふらつくじぶんで乗ったから、身体がどちらに傾くのか、どこで力を入れすぎるのか、どうすれば立て直せるのかを、じぶんで知ることができました。
下手なままやる。
うまくいかなかったじぶんを、そのまま出す。
すると、思っていたことと、実際にしたことの間にある差が見えてきます。
その差が、気づきの手がかりになります。
「下手でもいいから、やってごらん」という励ましの話ではありません。
下手なじぶんをそのまま出すことに、意味があるのです。
Failure is where awareness sprouts. (失敗が、気づきの芽吹く場)

⚫︎ 小さな調節を、積み重ねる
いまでは、坂道も、でこぼこ道も、考えずに走れます。
けれど、身体は何もしていないわけではありません。傾けば戻す。速くなれば力をゆるめる。路面が変われば、身体の位置を変える。あげればきりがないほどの細かな調節を、絶えずしています。
はじめから、この調節ができたわけではありません。
乗る。ふらつく。転ぶ。もう一度乗る。
そのたびに、思っていた動きと、実際の動きとの間に差が生まれます。その差に気づけば、次の動きがほんの少し変わる。また乗れば、また新しい差が生まれる。
一度に大きく直すのではありません。小さな調節を積み重ねながら、差を少しずつ積み減らしていく。
プラクティスとは、このきめ細かな自己調節です。
一回の調節は、ごくわずかです。それでも、前の一回が次の一回に生かされる。ふらつきが減り、少し長く進める。これをくりかえすうちに、ある時、乗れる。
そこには、前の経験を次に生かす『再帰』があります。小さな変化が積み重なって『乗れる』へ変わる『しきい値』があり、その先で、前にはわからなかった違いへの『気づき』が生まれます。(*注2)
身体を動かす。脳が捉え、覚える。そして、乗りたい、もう一度やるという心が、次の一回へ向ける。
身体、脳、心がくりかえし働いて、「乗れるまでやる」というらせんになる。
身につくとは、このらせんを、じぶんの内側で回すことなのです。
Grow from within. (内側から育つ)
この内側で起きているきめ細かな調節を、だれかが代わりにすることはできません。
では、すでにできる人、教える人には、何ができるのでしょうか。
(*注1)自転車に乗るとき、私たちは「バランスをとる」というひとつの動作を覚えるのではありません。身体が傾けばハンドルをわずかに切る、切りすぎれば戻す、上体や腰の位置を動かす、ペダルを踏む力を変える、速度にあわせて身体を傾ける、止まる直前に足を出す——。あげればきりがないほどの微細な調節を、ふらつき、足をつき、転ぶ経験を通して身につけています。自転車を例にした身体の自己調節については、こちらのエンパレットノートで紹介しています。
(*注2)前にしたことを次に生かし、そこで生まれたものをまた次へつなぐ。この「再帰」によって、小さな修正が積み重なります。そして、あるところで「できない」が「できる」に変わる。その境目が「しきい値」です。しきい値を超えると、それまで捉えられなかった違いにも気づけるようになり、また次の調節が始まります。再帰、しきい値、気づきについては「英語耳°獲得のプラクティス|Recursion⑦」で詳しく紹介しています。

内側を育てる|Growth From Within シリーズ
⚫︎ 外から人は育たない|人は内側から育つ①
⚫︎ 教えたと身についたは同じではない|人は内側から育つ②
⚫︎ やって、うまくいかないから、はじめてわかる|人は内側から育つ③
⚫︎ できる人には、見えないものがある|人は内側から育つ④
⚫︎ ことばのタネをまき、育てる|人は内側から育つ⑤
⚫︎ 同じことをしていても、育ち方はちがう|人は内側から育つ⑥
⚫︎ たのしい、うれしい、おもしろい |人は内側から育つ⑦
作(文・挿絵・声に出すことば・声):坂口立考
出典・参照:以下のエンパレットノートなど
