Empathemian『Escribir』

Writing is experiencing.(書くとは、体験すること)

「かく」ということばには、いろいろな漢字があります。

書く、描く、掻く、欠く、画く。

文字で想像がつくとおり、かく対象と方法が異なります。
おなじ「かく」でも、ちがう意味だから、同音異義語などと呼ばれます。

でも、かくという音の響きで表される行為には、共通点があります。
それは、指先や道具の先で対象の表面を削ることです。
そのようにして、何かを写し、残すことです。

つまり、かくということばの原義はひとつなのです。

紙が発明される以前は、石や粘土版にかいていました。(*注1)
道具の進化はあっても、かくということばの原義はかわりません。

石川九楊さんは、このように言います。

「書くという行為は削る、刻むという指先と紙の筆触ひっしょくによってもたらされる。ひとつの文章がつくられていく現場では、書きながら考え、考えながら書くという作業の繰り返しがつづられていく。書きはじめの立ち上がりのころには、漠然とした塊りのような前触感、<さわり>や<しこり>、つまり情動に過ぎなかったものから、小さな糸くずのようなものが織りあわされて、ひとつのことばの世界を出現させる。」

言うべきことばが作者の脳裡に前もって存在し、そのことばが外部に排泄されるように定着されているのではない。書きつつある現場に糸くずのように呼び寄せられ、織りあわされてことばを生んでいく。書くことを通じてことばは組織化され、はじめてことばは現実のものとして誕生する』

考えがはじめからあるのではなく、書くという体験によって、ことばが立ち上がってくる、というのです。

書くという身体行為。

ペン先から文字列が生まれる光景を見ています。
紙の表面を削る音を聞いています。
インクのほのかな香りを嗅いでいます。
紙の表面から伝わる感触を指で感じています。
思いや考えがことばに移される場面に遭遇しています。

書くとは:

・写し込む行為
・刻み入れる行為
・つくりだす行為

書くという身体行為の現場で、想像するじぶんの姿が写され、ことばが刻みこまれます。
じぶん自身の声が心にうつされる現象が、心の整流化になります。

では、キーボードを叩く体験はどうでしょうか?
これも、コンピュータの力を借りて、ことばを写し、刻み、想像する行為です。
手で紙に書く体験とは?

心の整流化 ③ [手で紙に書く]勇気のプラクティス へつづく

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出典・参照:石川九楊 『筆触の構造』、以下のエンパレットなど

(*注1)英語の中にも、ラテン語源の「かく」 scribere の系統のことばがあります。
石に刻むことから来ています。いずれも「かく」という行為から派生したことばは:

describe (記述する、描写する)
inscribe(刻む、彫る、贈る)
transcribe(写す、翻訳する)
ascribe (原因に帰する)
prescribe(処方する)
subscribe(定期購読する)
scribe (書記、筆記者)
script (手書き文字、台本、脚本など)

けずる、みがく、ほりだす。

意味って何?① [夢は見たことに意味がある]

石川九楊