Empathemian『Sandwatch』

Hey, you’re not the only one.(あのさ、じぶんひとりじゃないんだけど)

いちばん下の砂粒が言いました。

「ぼくには、みんなの重さがかかっている。
いちばん苦労しているのは、ぼくなんだ。」

なるほど。

砂時計のじょうごの部分。
下にいけばいくほど、圧力がかかっているように見えますね。

田口善弘さんは言います。

「砂時計のホッパー(じょうごの部分)の側壁にかかる圧力は、ホッパー内の粉粒体の量によらない。(*注1)
たとえば、下から3センチのところの壁圧は、その上に粉粒体が何センチ積んであろうと不変である。」

溜まっている砂のいちばん下に最大の圧力、と思いきや、そうではないのです。

山にトンネルを掘れるのも、おなじ理由からだ、と田口さんは言います。

「山は、岩や砂や土が積み重なってできたものだから、大まかに粉粒体と思っていいが、山の麓にトンネルを掘ったからといって、山の重さが全部トンネルにかかってきたのでは、トンネルはつぶれてしまう。岩石や砂の密度は水の数倍あるから、1000メートルの山麓にトンネルを彫り通すのが、数千メートルの深海に中空のチューブを置くのと同じことになり、不可能になってしまう。」

砂つぶだからです。
水では、こうはいきません。

水時計って、見かけないですよね?
なぜかというと、容器の中の水の量が多ければ多いほど、水はどんどん流れていってしまうからです。(*注2)

砂時計を見ても、何も驚かないですよね。
でも、あたりまえのように思っていることが、実は不思議な現象なのです。
自然世界の中の、砂粒のような「粉粒体」のなせる技だったわけです。(*注3)

You’re not the only one.(じぶんだけじゃないよ)

ところで、この話、何かに似ていませんか?

じぶんばかりが苦労している。
みんなより損している!

そんな時、砂時計を思い出しましょう。

苦労は、関わる人、みんなでわけあっているのです。
だれもが、おなじ立場に立てない、というだけです。
圧力は等しくかかっているのですから。

みんな、おなじ。[察する力]

ひとりじゃない、みんなおなじ。

ロケットだって、ひとりじゃない [気を楽に、身を軽く]

出典・参照:田口善弘『砂時計の七不思議』

(*注1)ホッパーとは、キッチン用品、工具の「じょうご」のことです。

(*注2)水時計に蓄えておかなければならない水の量は、時間の長さの2乗に比例します。ということは、小さな砂時計に匹敵するものをつくるには、巨大な貯水タンクが必要です。しかも、残っている量をみても、何分だかわからない、非現実的なものになってしまうのです。

(*注3)粉粒体