
We are because we remember.(思い出すことで生きている)
民俗学者の谷川健一さんは、民俗学を「現在から過去へと思い出していく」学問だと語りました。
民俗学は、文字に残された歴史だけを見るのではありません。人から人へ伝えられた話、声、記憶、暮らしの中のふるまいをたどります。
歴史は、年表のように過去から現在へ流れてくるだけではありません。いまを生きる私たちが、思い出しながら過去へさかのぼっていく道もあります。
思い出すことは、ただ記憶を取り出すことではありません。いまの自分が、過去にもう一度ふれることです。
民俗学が大切にするのは、文字に残らなかった声です。
だれかが語り、だれかが聞き、また別のだれかに渡してきたことばです。記録が残っていないところにも、人の暮らしはありました。その跡をたどるには、伝えられた話、ふるまい、記憶に耳をすますしかありません。
声にして語る。
人から聞いたことを思い出す。
忘れていた場面が、ひとことからよみがえる。
ひとりの人間の心も、民俗学の探求と同じです。
私たちの記憶は、歴史年表のようにはなっていません。
頭の中は「編年体」で記録されているのではなく、思い出すことばや情景によって、その都度、心が動き、場面がよみがえります。
この「じぶん」は、口承伝承で成り立っています。
私たちは、人からもらった大切なことば、じぶんで紡ぎ出したことばを、じぶん自身でつないでいく存在です。
声でことばを紡ぎ、思い出しながら、生きている。思い出すことで、じぶんの歴史にふれ直しながら、生きている。
エンパシームで、ひと言を紡ぐと、じぶん自身と、親しい人たちの結びつきができます。
作(文・挿絵・声に出すことば):坂口立考
出典・参照:谷川健一・大江修『魂の民俗学』
