Empathemian 『Meeting a little deer at Arastradero Open Space Preserve, California』

谷川健一さんは、こう語りました。
「民俗学は魂の学問です。神と人間と動物の交渉の場です。人間と神、人間と人間、人間と自然の生き物、この三者の間の三者間の強い親和力が、民俗を生んだのです。

民俗学は民間伝承を取り上げて研究していきますが、それは口承の形が多い。文字記録や、遺跡・遺物がないところで、日本の過去・歴史、あるいはその民衆の生活史を探ろうとする時には伝承に頼る以外にはありません。そこに民俗学の置かれた立場があります。

伝承の特徴は、時代あるいは時間を超越しているというところにあります。歴史学や考古学は始原から始まる時間です。しかし、人間の記憶というものはだんだんと遡っていき、最後にその始原に到達する民俗学は現代から遡行するというが特徴。そこに民間伝承を重視する民俗学の特徴があります。

小林秀雄が言ったように、事実の羅列が歴史ではない。思い出すということが歴史の核心です。いま思い出して触れることができるなにかがあるからこそ、その事実がある。歴史は上から水が流れ下るような紀年体だけのものじゃない。もう一方に遡る歴史がある。思い出す歴史がある。これは大変重要です。民俗学は、現在から過去へと思い出していくのです。」

ひとりの人間の心も、民俗学の探求と同じではないでしょうか。私たちの記憶は、歴史年表のようにはなっていません。頭の中は「編年体」で何かが記録されているのではなく、思い出すことば、情景によって、その都度、心が演出されるのです。この「じぶん」は、「口承伝承」で成り立っています。私たちは、人からもらった大切なことば、じぶんで紡ぎ出したことばを、じぶん自身でつないでいく存在です。

声でことばを紡ぎ、思い出しながら、生きている。
思い出すことで、想像の歴史をつくりながら、生きる存在。

エンパシームで、ひと言を紡ぐと、じぶん自身と、親しい人たちの、結びつきができます。

出典:谷川健一・大江修『魂の民俗学』