Empathemian, Menlo Park, California

久しぶりの雨で庭の木々がしっとりと柔らかくなった。

いつの間にか、洋梨の木に小さな白い花が咲き出している。
控えめに芽吹いた新緑の葉に寄り添い、つぼみからふんわりと膨らんだ花が霧雨に濡れてしおらしい。

庭全体が振動する微粒子に包まれ、辺りには樹木の爽やかな香りが充満している。
胸いっぱいに湿った空気を吸い込むと、体中がじんわりとしてくる。

風雪培土、細雨養花

(ふうせつばいど さいうようか)

子どもの頃、父が教えてくれたことば。
風雪が土を培い、細雨が花を養う。人が育つためには、厳しさとやさしさのどちらも大切。

父はこう言った。

「風雪培土」は出典がある。「細雨養花」は、オリジナルの造語。対にして意味があるんだよ。

厳しいことに直面した時、私はこのことばを思い出す。
「風雪」は厳しいだけではない。やがて雪どけ水となり、じぶんという土壌を培う。

「細雨」は、やさしく包みこむ空気になる。
その包容のおかげで、人は元気を取り戻したり、勇気づけられたりする。
息張るだけでは長続きしない。

休養をとり、気を休めなさい、という天の声に耳を傾けることが大切なのだ。
そう思えると、しぜんに心が和らいでくる。

ふだん、忘れているけれど、細雨養花が思い出させてくれる。
実際、雨の降る日、人間の体は、副交感神経が優位になり、免疫システムが活発になるという。
体も心も、自然に身を委ねて、回復する時間が必要だ。

みずからが、じぶん自身への風雪になり、細雨になること。 無条件に。共感の力を活かして。

Nurture your Self.

「しあわせる」

「おなじ空気を吸っている」

「静寂の開放感 [心のエネルギー]」

出典:坂口立考 『谷川健一創刊 海の宮5号』「細雨養花」

エッセイ『細雨養花』(PDFをダウンロードできます)