
Once you see it that way, you can’t unsee it.(一度そのように見ると、それ以外のものには見えない)
何度となく見てきたのに、意外に気づいていなかったことがあります。
おなじみのMr. Bean(ミスター・ビーン)。
変な人、変わり者。常識はずれのふるまいが、次々と騒動を引き起こします。滑稽で、時には迷惑きわまりない。でも、どこか憎めない人物です。
ところが、このMr. Bean、実は宇宙からやってきた人物かもしれないのです。
思い出してください。テレビシリーズのオープニング。暗い街角に突然、天から光が差し込み、Mr. Beanが地面に落ちてきます。
明らかに、空から落ちてきています。
それなのに、私たちは「空からやってきた人」として見ていません。変な人が登場する、おかしなオープニングだと思っているのです。
なぜでしょう?
はじめから「Mr. Beanは変な人」と思って見ているからです。その先入観があるために、目の前で起きていることを、そのまま見ていないのです。
いったん気づくと、いろんなことが見えてきます。
たとえば、背景に流れる荘厳なラテン語の合唱。
「Ecce homo qui est faba」
直訳すると「見よ、豆である男を」。
つまり、Mr. Beanのことです。あの荘厳な合唱も、実はジョークだったのです。(*注1)
さらに、演じたローワン・アトキンソン自身、Mr. Beanには異星人的なところがあると語っています。アニメ版では、Mr. Beanそっくりの宇宙人たちがUFOに乗って現れる話まであります。
実写版で宇宙人だと明言されているわけではありませんが、そう思って見直すと、奇妙なふるまいにも合点がいきます。
地球の習慣も、人間社会の決まりも知らない。だから、何でも自分で考え、自分のやり方で試してみる。私たちが非常識だと笑っていたことも、Mr. Beanにとっては、ごく自然なことなのかもしれません。
考えてみれば、Mr. Beanは少し変わっているだけで、どこにでもいる普通の人でもあります。世の中にはもっと変わった人がいくらでもいます。もちろん、時には周囲に迷惑をかけますが、悪意があるわけではありません。
むしろ、彼のおかしなふるまいを見ているうちに、私たちがふだん何の疑問も持たずに従っている、社会の暗黙の決まりごとや慣習が浮かび上がってきます。
なぜ、そうしなければいけないのか。誰が決めたのか。みんながそうしているから、自分もそうしているだけではないのか。
私たちは、見慣れたものを、知っているつもりで見ています。先入観があるために、目の前にあることさえ見過ごしてしまうのです。
Mr. Beanは何も変わっていません。変わったのは、こちらの見方です。
一度気づくと、もう以前と同じようには見えなくなります。
これも、Unlearningです。
作(文・挿絵・声にだすことば・声):坂口立考
出典・参照:Mr. Bean(TV Series, 1990–1995)、Mr. Bean: The Animated Series「Double Trouble」(2004)
(*注1)「Ecce homo」(見よ、この人を)は、新約聖書『ヨハネによる福音書』19章5節に登場する言葉です。ローマ総督ピラトが、群衆の前にイエスを連れ出したときの言葉です。「faba」はラテン語で豆を意味し、英語の「bean」に相当します。聖書の言葉をもじって、Mr. Beanを大まじめに紹介しているのです。
