Empathemian『A Penalty Shootout』

Nevertheless, all you need to do is practice.(それでも、できるのは備えることだけ)

サッカーは運に左右される比率の高いスポーツです。
90分走り続けますが、ボールにふれている時間は、ほんの数%。
人とボールの位置関係。そのわずかな差が勝負を決めます。

トーナメント式の大会では、90分で勝負がつかない場合、30分の延長戦。
それでも勝負がつかない場合、ペナルティシュートアウト(PK戦)で勝負を決めます。

PK戦の心理

PK戦ほど、感情移入せざるをえない時はありませんね。
「失敗してはいけない」という気持ちがつのります。

相手との戦いというよりもじぶんとの戦い。
技もさることながら、精神力がものを言う、と。
いや、勝負は時の運、とも。

運に左右されるとは言っても、くじびきのような偶然とは違います。
勝つ確率を高めることはできます。
出来る限りの準備をすることで結果は違ってきます。

まず、ふだん出せない力はでてきませんから、プラクティスありき。
・プレッシャーのかかる場面で、どれだけ力が出せるか。
・どれだけペナルティキックの練習を積んでいるか。
・駆け引きの練習、メンタルトレーニング。

しかし、ふだん、試合の中で経験を積める選手は限られています。
「外したら終わり」という状況での体験は限られています。

ボールをけるのはひとりひとりでも、PK戦はチーム同士の勝負。
仲間が失敗することでさらにプレッシャーがかかり、心理的なストレスが大きくなります。

などと考えだすとボールをけるのが怖くなりそうです。

Empathemian『A Penalty Shootout』

PK戦の道理

過去の統計から、ペナルティシュートの成功率は約70%といわれます。
5人のキッカーのうち、はじめのキッカーはより確率が高く、プレッシャーのかかる3人目、4人目。
5人で決着がつかない場合は、「サドンデス方式」でひとりひとりの勝負。
成功率はさらに下がります。

冷静に考えてみると?
平均70%(10人に7人)ということは、5人ける時、3.5人。
5人のうち3人は入ったとしても、4人は入らない。

キーパー側から見ると、止められるのは5人に1人(20%)です。
キッカーのボールが枠を外れてしまったり、バーに当たるケースがあるからです。

大事なことは?
100%勝てる方法はありません。
相手があるのですから。

また、PKを100%決められるキッカーもいません。
どんなに優れたキッカーでも成功率は90%を超えません。
大きな大会のPK戦となると、その数字はせいぜい80%です。

堅くいこう?
・(キッカーは)右か左に山をはってける。
・(キーパーは)右か左に山をはって飛ぶ。

でも、これだとざっと50%です。
イチか、バチか。
これでは勝てないでしょう。

思い切っていく?
キーパーがとれないところにけることは可能です。
そこにけれさえすれば、100%取れないギリギリの両上隅。

ですが、そこに確実にけれるという保証はなく、はずすリスクが高い。
実際、優れたキッカーや経験豊富なキッカーは、(思い切ってけろうとするので)はずすリスクも高くなります。

5人のうち、1人か2人。
キーパーにセーブされるか、枠を外してしまいます。
それは、失敗と呼ぶよりも、成功しない確率。

1人の差が勝負を分けるのです。
チームスポーツとして、その1人分の差を生むことが監督の采配になります。

キッカー選びと、ける順番。
これが勝敗をわける大きな要因になります。(*注1)

All you need to do is practice.

What else can you do?(他に何ができる?)

一般に、先行のチームが有利とも言われます。
70%は成功するのであれば、後にける側は、はじめから「決めなければ負ける」心理状態からスタートしなければなりません。
先行選びはコイントスですから50%の確率。
これはどうしようもありません。

先行有利と言いつつも、先行のキッカーが外すと話は逆転します。(*注2)
入れれば、相手が常に「決めなければ負ける」状態になります。

先行トップのキッカーのスキルが高ければ、有利に立てます。
接戦になれば、3、4番目のキッカーに重圧がかかります。

ペナルティシュートの物理

PK戦は、100年以上前に発明されました。
当時からルールはほぼ変わっていません。
ペナルティシュートは、ゴールまでの距離、ボールの速度、人間の判断・運動能力などの物理関係です。

それは、70%ぐらいの割合で入る関係。
あるいは、30%ぐらいの割合で入らない関係。
あるいは、全員入る確率は、20%もない関係。

では、何ができる?
心配いりません。
できるだけ、たくさんプラクティスすることです。
できるかぎり、真剣にプラクティスすることです。

それ以外、できることはありません。
また、それ以上、できることもありません。

ワールドカップのPK戦を終え、ある監督がこう言いました。

「サッカーは美しいスポーツ。
勝負は厳しいが、戦争ではない。
シュートを外した選手に責任はない。
じぶんが順番を決めたのだから。
相手を称えたい。
負けてもプラクティスがすべてという気持ちに変わりはない。」

What matters most?(肝心なことは?)

メンタルを鍛える?
心を直接、鍛えることはできません。
鍛えることができるのは、プラクティスの仕方だけです。

そう思えば、何も心配はいらなくなります。

出典・参照:以下の論文、エンパレットなど

(*注1)ペナルティシュートアウトについての研究はたくさんありますが、監督の視点に立てる論文はこちら。Optimal Lineups in Penalty Kick Shootouts: An Empirical and Theoretical Investigation

The Right-Oriented Bias in Soccer Penalty Shootouts

(*注2)ワールドカップのPK戦の歴史では、先行の勝率が50%と、通常のPK戦よりもずっと低い結果になっています。

他になにができる?[強い味方になることば]

決定力?[すべては、ふだんのチカラ]

ことばを身につける ③「運動のトレーニングとおなじように、適度の強度が必須」

脳を活性化させるしくみ ① [山路を登る]