Just listen. (耳を澄まして)
家庭生活で、もののしくみが壊れるトラブル。ユキさんの体験エピソードから。
「キッチンの排水管が詰まりました、じぶんでできることはやってみたのですが。」
夕方、大家のショーンさんがやってきました。
排水管の詰まりを取り除く、スネーク(手動式・回転ワイヤーパイプ清掃器具)を片手に持って。
排水口から数メートル先までパイプ壁をドリル。
ホースで水を注いでみましたが、詰まりは取れていません。
15年ぐらい前に詰まった時に買ったのが、このスネークだそうです。
でも、ちょっと歯が立ちません。塊はもっと奥の方のようです。
「やっぱり、ふさわしい道具がいるね。」と、ショーンさん。
友人のフランクさんに電話して助けを求めました。
はっとするような三日月が空に浮かぶ、夏の夕暮れ。
フランクさんは「巨大なスネーク」を携え、颯爽と現れました(*注1)
彼は水道工事の専門ではないのですが、長年の経験と「ふさわしい道具」を持っています。
フランクさんのスネークは、コブラ級の迫力。
さっそく、ドリル作業に取りかかります。
ユキさんがパイプの口を懐中電灯で照らし、ショーンさんがホースで放水役。
電動式のワイヤーの先にカッターがついていて、障害物を粉砕します。
フランクさんは、5メートルほどの区間を何度もくりかえし、ワイヤーの出し入れをします。
「これはもっと奥の方だな。通常は、洗剤やらいろんな廃物が固まってつまるんだけど、木の根が入り込んでいる可能性もあるよ。」
15メートルのワイヤーで、さらにドリルを続けます。
ホースの水量を調節しながら、ねばり強く、何度も何度も。
「よーし。水を全開で流してみよう。」
3人は、排水管の中をつたう音に耳を澄まします。
どうやら、パイプの壁についている汚物はそぎ落とされたようです!
水がスムーズに流れるようになりました。
また、木の根がめりこんでいるのでもなさそうです。
ユキさんは言います。
「フランクさんを見ていて、思いました。感覚をフル稼働させているんですね。それに、細やかに、くりかえす、ちょっとしたねばり。」
そうです。すべての感覚を結いあわせて、ひとつのイメージ(全体像)をつくりあげているのです。
・排水管の接合部を開けて、のぞき見る時の印象
・懐中電灯の光の反射でわかる、廃物の様子
・ねばり強く、ドリルをくりかえしながら、得る手の感触
・洗浄されるにつれ、だんだん変化していく、匂い
地中に埋まった排水管の中は見えません。
頼りになるのは、微かな、音の変化。
・ホースの水流の音(の変化)
・排水管を伝う水の音(の変化)
・電動ワイヤーの回転の音(の変化)
・ワイヤーが排水管の壁をこする音
日常の家庭生活の風景(*注2)。
予期しないトラブルの中に、プラクティスのヒントがあります。
排水管の壁に付着した堆積物が次第に厚くなり、ある部分にボトルネックができます。
排水管内の、ボトルネックが原因だ、と。
いいえ、ボトルネックは原因というよりも、日々少しずつ排出物が堆積した結果です。
いいえ、その言い方も少し、ちがいます。
ボトルネックは、原因(はじまり)でもなく、結果(おわり)でもありません。
ものごとが持続する時の、ひとつの「経過地点」です。
排水管の詰まりは、動脈硬化にも似ている、などとも言われます。
長年の間に少しずつ脂分が管の壁にこびりついて、流れが悪くなっていくと、ある日、完全に止まる時が来ます。
何十年もの蓄積。
ものごとでも、身体も心も、流れが悪くなる時があります。
それは、生きて暮らしていることの証に他なりません。
ふだんの手入れで長持ちさせることはできます。
でも、ボトルネックは、気づかないうちに、できるもの。
後からふりかえると、小さな兆候(流れが悪くなったり)があったことに気づくこともあります。
長年の堆積の存在に気づくこと。
何かが滞った時は、静かに、耳を澄ましてみることです。
壁の中や、地中に埋まった水道管を直接見ることはできません。
同じように、じぶんの身体の中も、心の中も、見ることはできません。
でも、実は、だれにでも、目に見えないものを見る力が備わっています。
それは、耳を澄まして、音を聞くことです。
手に触れて、感触を確かめることです。
見えないものを見るとは、耳を澄まして、音をイメージに変えることです。
私たちは、ふだんから、見えないものをみようとしているのです。
心身を使い、五感を結いあわせて、心にイメージをつくりだす力。
私たちは、目だけでなく、センスで世界を見ているのです。
目を凝らしても見えないものも、耳を澄ませば、見えてきます。
Just listen. (耳を澄まして)
Breathe out. (息を吐き出して)
Voice out. (ことばを声に出して)
出典・参照:英プラトレイル1 (27) Just Listen および、「なりきりコース」 Just Listen ツボノート、以下のエンパレットなど
That makes sense.(センスということばについて)
(*注1)「巨大なスネーク」(電動式・ワイヤー式排水管清掃機)
(*注2)日常の家庭風景には、ものが壊れる、トラブルがたくさんあります。
エンパレットでも、ユキさんの「電気、ガス、水道」それぞれのエピソードからエンパレットに抽出しています。
上記リンクからごらんください。