坂口立考『心の溝を克服するために (1)』

人間とテクノロジーのみぞ

ますます高度化・複雑化するテクノロジーと人間の生来の能力、そのギャップは大きくなっています。

テクノロジーが生活を便利にしてくれる恩恵。
人間ができないことをテクノロジーがやってくれ、人間の生活が豊かになるのなら、それでよいではないか。
そんな暗黙の前提で進んでいる現代社会。

どこに問題があるのでしょうか?

それは、人間の本来の力が社会に活かされにくくなっていることです。
そのこと自体が気づきにくく、わたしたちが無自覚にいることが切実な問題です。

人間の心のギャップ

私たちの日常生活は、気づかぬうちにテクノロジーに依存しています。
日々大量の情報を得て、何でも手に入れられるのが「あたりまえ」になっています。

それは人間の心理、日々の行動にも影響を与えます。
スマホで頻繁に情報を取りすぎて、不安や不信感を掻き立てられたり、人に無神経、攻撃的なふるまいをしてしまっていたり。
SNSでみられるような誹謗中傷に自分は無関係だと思えば、自分に関係のないこととして、ますます無関心にもなったりします。

こんな実験をしてみましょう。

(1)何もしないで、ひと息分、ゆっくり「待って」みてください。

「待つ?何のために?意味もなくすることは無益。やっても何の得にもならないことは、ただの時間のムダ。」

心のどこかで、そんなふうに感じるのではないでしょうか。

(2)日常の中で、ほんの数秒が待てなかった、といった経験を思い出してみてください。

「たまに、そういうこともあるけれど、それはそういう状況だった。待とうと思えば、待てると思う。」

本当にそうだと言い切れるでしょうか?
頭の中でいくらそう思っても、そのように行動できないことのほうが、ずっと多いのではないでしょうか。

* しようと思えばできるが、やらない。
* しようと思うけれど、やれない。
* しようと思わなくなっている。

一度もやらないことは「やろうと思えばやれる」ことには入らないのでは?

たった1秒が待てないじぶん。
でも、そのじぶんだけが、本当のじぶんとも言い切れないですよね。
そんなはずはない、そういうこともあるだけだ、と。

このギャップは何なのでしょうか?

What matters most?
いちばん大切なことは?

「心の溝を克服するために (2)」へつづく