Empathemian 『音の箱』

そっと、ふたを開くと、
箱ぜんぶがキカイでした。

出っ張った2本の棒。
小さな四角い箱。
それに丸いボタン。

4歳の夏でした。

父は、タイヤのようなものをふたつ取り出しました。
片方の車輪の真ん中を、片方の棒に。
もう片方の車輪を、もう片方の棒にはめました。

車輪はヒモでした。
そのヒモで、四角い箱と、
ふたつの車輪が結ばれました。

ガチャ、と音がして、
そのヒモがくるくると回りだしました。

「なんだろう、これ?!」
思わず、そう言いました。

父がレバーをガチャリとすると、
キュルキュル、という音がしました。

もう一度、ガチャリ。
「なんだろう、これ?!」

なんと、声が飛び出してきたのです。
その声は、ぼくでした。

Empathemian, The box

声のほかに、空気の音が入っています。
セミが声が入っています。

風鈴の音が、チリリリン、としました。

「ロクオンだよ。」
父はそう言いました。

「ロクオン?」
「そう。テープレコーダー。」

音の箱の中は、
茶の間より、ずっと広く、
ずっと、すてきに感じました。

音がヒモに写って、
それがもう一度、外に飛び出てくる。

しかも、さっきより、よくなっている。
すごく、フシギでした。

Life is wondrous.(フシギは、たのしい。

出典・参照: 以下のエンパレットなど

声の中に生きているーふしぎ

『ことばの声』(PDFをダウンロード)