Hawk-Eye 「テニスの判定シーン」

What happened?(何が起きた?)

⚫︎ インか、アウトか?
⚫︎ ボールか、ストライクか?
⚫︎ オフサイドか、オンサイドか?

見たことがありますよね。

テニスのライン判定。
野球のボール・ストライク判定。
サッカーのVARによるオフサイド確認。

審判の判定のあと、画面には、ボールの軌道や選手の位置を示す映像が現れます。ほんのわずかな差まで、はっきりと描き出されます。

でも、あの映像は、実際に起きたことそのものを再生しているのでしょうか。

いいえ。そうではありません。

あれは、過去の出来事をそのまま録画した映像ではなく、複数のカメラで得られた情報をもとに、あとから位置や軌道を推定し、見える形にしたものです。

⚪︎ テニスでは、ボールがラインに触れたかどうか。(*注1)
⚪︎ 野球では、ボールがストライクゾーンを通ったかどうか。(*注2)
⚪︎ サッカーでは、パスが出た瞬間に、選手がどこにいたか。(*注3)

どれも、過去に起きた一瞬の出来事を、観測データから推定しているのです。

ABS「ストライクの判定シーン」

We see what we think happened.(私たちは、起きたと思っていることを見ている。)

実際に起きた出来事は一度きり。その瞬間に戻って確かめることはできません。

それでも、後からわかることがあります。

ボールがラインに触れた瞬間を、肉眼で正確に捉えることは難しい。しかし、複数のカメラで記録された情報から、その接地位置を計算することができます。

その場にいた審判には見えなかったことが、後からわかる。そして、その結果が審判の判定を覆すこともあります。

私たちは、画面に示された結果を見て、「これが事実だ」と受け取ります。

けれども、それは過去の出来事そのものではありません。後から再構成された、過去についての情報です。

VAR 「オフサイド判定」

過去に起きたことを、後から推定する。

考えてみれば、私たちも毎日、それをしています。

昨日の会話。先週のできごと。忘れられないひとこと。

私たちは、それらを思い出すことができます。しかし、記憶は、過去をそのまま保存した録画ではありません。

見たこと、聞いたこと、そのときの気持ち、あとから知ったこと。そうした情報をもとに、過去の出来事を再構成しています。

それなのに、思い出したことを、実際に起きたことそのものだと思ってしまいます。

現実は、再生できない。

見えているのは、過去の推定です。

そのことに気づくこと。これもUnlearningのプラクティス。

作(文・挿絵・声にだすことば・声):坂口立考
出典・参照:以下のエンパレットノートなど

(*注1) Hawk-Eye(ホークアイ)
複数の高速カメラでボールを追跡し、三次元の軌道を計算します。その軌道から、ボールが地面に接した位置と接触範囲を推定し、ラインに少しでも触れていたかどうかを判定します。

(*注2) ABS(Automated Ball-Strike System)
MLBが2026年に導入。Hawk-Eyeの高速カメラで投球を追跡し、三次元の軌道を計算します。そこから、ホームベース中央に設定された仮想のストライクゾーンを、ボールが通過した位置を求め、ボールかストライクかを判定します。

(*注3) VAR(Video Assistant Referee)
複数のカメラ映像を使って審判の判定を検証します。半自動オフサイド判定では、カメラで選手の身体各部とボールを追跡し、パスが出された瞬間の位置関係を推定します。そこからオフサイドラインを算出し、選手がラインを越えていたかを示します。