The journey matters more than the destination.(大切なのは目的地よりも旅そのもの)
アドベンチャー(Adventure)ということばから何を連想しますか?
「冒険」と訳されますが、もともと、「危険を冒す」という意味ではありません。
語源のラテン語の意味は、「何かが起きる」こと。
不思議なことに出会うことです。
『ニルス・ホルゲンソンのふしぎなスウェーデン旅行』は、日本の明治時代の作品です。
世界中のことばに訳され、長く親しまれてきました。
大正時代、日本で初めて出版された翻訳のタイトルは『飛行一寸法師』。
英語では「The Wonderful Adventures of Nils」です。
妖精トムテの魔法で小人になった少年ニルス。
白ガチョウのモルテンの背中にのり、スウェーデン各地を共に旅します。
小人になって、ニルスは動物のことばがわかるようになりました。
動物たちのことばに耳を傾けることで、自然破壊に見られるような、人間のわがままなおこないに気づいていきます。
ニルスは、旅先でいろいろな出来事に巡りあいます。
読者もまた、意外な場面にめぐりあえます。
旅の終わりのほうに、こんな話がでてきます。
「日本から来たのであろうか、小柄な紳士がすわっている。」
これは、ネースの手工講習所の場面です。
作者のセルマ・ラーゲルレーヴが、執筆のためにその場所を訪れた時、そこには日本人がいました。(*注1)
明治時代の半ば、確かに、日本からの留学生が2名いたのです。
当時、スウェーデンの教育には、手工科(スロイド slöjd)がありました。
ふたりは、この学校で「手工」を学び、それを日本に持ち帰って、日本の教育に取り込みました。
現在の小学校の科目「図画工作」のルーツです。(*注2)
スロイドとは、手仕事、手工芸という意味です。英語のHandcraftにあたります。
手工は、初等教育と職業教育を兼ねていました。
こんなエピソードに出会うのも、著者と共に旅をするたのしみです。
旅が終わり、ニルスは人間にもどります。
動物のことばはわからなくなりましたが、アドベンチャーによって心が深くなりました。
出典・参照:セルマ・ラーゲルレーヴ『ニルスのふしぎな旅』、「The Wonderful Adventures of Nils」
(*注1)横山悦生『手工科成立過程期における日本 とスウェーデ ンとの教育交流』 (名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要)
(*注2)菅生均「後藤牧太の手工教育観に関する一考察」(熊本大学教育学部紀要)
Life is an adventure (1)[カロリーヌの冒険]
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