Do it with intensity.(強度のある練習を)
ワーキングメモリは、毎日のプラクティスで鍛えることができます。
ポイントは、身を入れて毎日すること、コンスタントにくりかえすことです。
トーケル・クリングバーグ博士は、このように言います。
「脳は、自然が創造した、たいへん複雑な器官です。身体の筋肉と比較するなんておかしい、思われそうですが、ワーキングメモリも筋肉にたとえると、とてもわかりやすくなります。メンタルマッスル(心の筋肉)のようなもの。身体を鍛えるには、エキササイズがいりますね。脳もおなじです。」
トレーニングには、インテンシティ(強度)が必要です。
適度な負荷をかけることで、鍛えられます。
脳でも肉体でも、基本は変わりません。
筋肉を鍛えるには、紙きれを持ち上げても、効果はありません。
ある重さのものを持ち上げる必要があります。
速く走れるようになるには、あるスピードで走る練習がいります。
100メートルをダラダラと歩いても、走るトレーニングにはなりません。
あたりまえですよね。
必要なインテンシティがないと、効果はあがらないのです。
では、ワーキングメモリを鍛えるには、どんな強度がいるのでしょうか?
言い換えれば、ことばを習得したり、しっかりと身につけるためには、どんな「適度の負荷」が必要なのでしょうか?
Follow the routines with intensity.(強度のあるルーティンを)
英語の学習は、その典型的な例です。
が、処理速度やトレーニングの強度といったことは、ほとんど指摘されることがありません。
机に向かい、本を読んで覚える「勉強」科目だと思われているからですね。
でも、本来、英語を使えるようになるには、トレニーングが不可欠です。
必要なインテンシティを端的に述べると:
(1)自然な(つまりネイティブの)速さ・リズムに近づけようとすること
(2)2秒のセリフを、いったん覚えて、ひと息でアウトプットする(演じる)こと
(3)くりかえし、ふりかえり、じぶんで確かめること
それがインテンシティ?
そうです。
どこに、「適度な負荷」がかかっているのでしょうか?
まず、聞いているだけでは、聞くチカラを養うことはできません。
じぶんで、セリフとして(その気持ちになって)アウトプットすることから。
そして、「いったん覚えて」から出すことです。
文字を読むのではなく、本当に語るように演じること。
2秒のセリフには、2秒以内のもの、2秒をすこし超えるものがあるでしょう。
肝心なことは、完結フレーズをいったん覚えて、ひと息で出すことです。
アウトプットは、全身を使っていて、インプットより負荷がかかります。
手本をまねてスピードとリズムをつけようとすることに、トレーニングの要素と、必要なインテンシティがあります。
この「2秒」には、たいへん大きな意味があります。
ワーキングメモリの容量は、2秒でアウトプットできる長さ(速さ)と言いかえられます。(*注1)
なぜでしょうか?
文字を読んで覚える時も、ワーキングメモリは、音のまとまりに変えているからです。
つまり、目で見て覚えていると思っていても、実は、耳で聞くようにしか覚えられない、ということなのです。
視覚的な記憶であっても、ことばのトレーニングは、あなたの出力スピード(処理能力)がベースになるわけです。
2秒を超えるような長さのセリフは、いちどには覚えられません。
ネイティブの自然な発話速度の2秒に近づけることで、処理速度=容量を上げるのです。
ということは?
たとえば、本来2秒のセリフを、たとえば5秒かけて言うとします。
一見、練習のように見えても、肝心のインテンシティがありません。
近づけようとしているか、どうか。
言い換えれば、ワーキングメモリをしっかり働かせようとしているか、どうか。
じぶん自身が、2秒で言えないことばは、ワーキングメモリが処理できていないということです。
従って、そのことばを聞いた時にも、自然の速度では聞き取れません。
じぶんがある速さで言えないセリフは、聞き取れないのです。(*注2)
まず、じぶんで「処理できる」ことから練習することです。
長い文を、ゆっくり読んでも、音のまとまりを身につける効果がありません。
処理できないことばを、不完全なまま。長々とやっても、ワーキングメモリは鍛えられないまま。
「走る練習で歩いている」ようなもの。
つまり、トレーニングになっていない、ということです。
It’s genuinely a physical exercise.(正真正銘、身体運動トレーニング)
ところで、ことばは、全身を使った運動です。
言語活動というと、大脳・長期記憶の話のように思われがちですね。
もちろん、総合的、統合的な活動です。
でも、忘れられがちなのは、身体運動だということです。
その中で特に、高速処理、リズム(タイミング)には小脳の働きが重要。(*注3、4)
スポーツと比べるのは、トレーニングで鍛えられるというアナロジーだけではありません。
正真正銘、運動トレーニングそのものでもあるのです。
ことばを身につける ④ 「心の(ことばの)ものさし」をつくる」へつづく
ことばを身につける ②「処理することを学ぶ、処理したものだけが身につく」にもどる
出典・参照:Torkel Klingberg『The Overflowing Brain』、以下のエンパレット、英語トレイルガイド
(*注1)Alan Baddeley 『Word Length and the Structure of Short-term Memory』
(*注2)こちらの動画でためしてみてください。英語習得の最大のボトルネックを克服する「2秒」
(*注3)身体で覚える (後編)に、言語と小脳の働きについて紹介しています
(運動を正確に行うには、複数の筋が協調して活動する必要がある。小脳は、数10ミリ秒〜数100ミリ秒単位のタイミングで、それぞれの筋に、適切な強さと的確な制御をする)
Torkel Klingberg (Google Scholar)