Empathemian『Trumpet Vine Memorial』

What happens if you walk 1000 times?(1000回歩くと何がある?)

母がしばらく前に送ったという郵便が届いた。

のうぜんかずらがひときわ精彩をはなっていた梅雨明けの日曜日、ある人が訪ねてくる。「凌霄忌りょうしょうき」の冒頭から。

「道を隔てた隣家ののうぜんかずら。鮮やかな橙赤色の花で窓枠がいっぱいになっている。絡みついて登った花が、大きな緑色の樹のいただきから幾本もの蔓を垂らして咲く姿は、まるでオレンジ色の傘のようだ。凌霄花という中国名は、この花が大空に高く登るさまをみて名付けたのではないだろうか。」

「何時も咲き出すとハッとさせられる花。漢字から受ける花のイメージ、「りょうしょうか」と発音する花のイメージが共通していて、どこか孤高のすがすがしさを抱いた。凌霄という語には、現実の俗世界を超越するという意味があり、凌霄の志ということばもある。それが和名の、のうぜんかずらになると、とたんに蔓性植物の濃密さが想起されて、さわやかなイメージから遠くなる。」

「この花は遠くからでもよく目立つ。赤味がかかったオレンジ色の花は、群がって咲くと目をみはるほどの鮮やかさだが、花びらのひとつひとつは濃淡があって、思ったより不透明だ。」

そうだったんだ!
いつも通り抜ける、近所の路地。片側のフェンスを覆う蔓状の植物。
あれが、のうぜんかずらだったのだ。
だから、Chinese Trumpet Vineと呼ぶのだ!

2020年最後のエンパレット。
毎日、ひとつずつ、とぎれなく、つくれたのは「歩いた」おかげだ。
日本時間のおおみそかの早朝まで、あと1時間ほどだが、たった[いま]、気づいたことを載せたい。

歩くとは:

・空をあおぐこと、じぶんの息に気づくこと。

・雲をみること、じぶんの影をみること。

・鳥の音をきくこと、じぶんの足音をきくこと。

・花の香をかぐこと、風にふれること。

・対話をすること、思い出すこと。

・歌をうたうこと、じぶんのことばをみつけること。

それだけではない。

・会話にうつし、写真にうつし、日記にうつすこと。

・ふりかえって、ことばにとどめること。

・それをまたとりだして、組み立てること。

Empathemian『のうぜんかずらの蕾」

今年、ちょうど100回、歩いた。
(今年は、山火事の影響で有害微粒子の舞う日々が続いたけれども、おかげで近所を歩いた)

カリフォルニアのこの地に移り住んで、10年になる。
ちょうど、1000回ぐらい、歩いたことになる。

What happens if you walk 1000 times? A good thing, or two.(1000回歩いたら?いいことがあるよ)

『凌霄忌』は、大切な友人を偲ぶ、短編作品。
実は私も、一度だけ、その人にあったことがある。
40年前の、その声が鮮明によみがえってくる。
人は、心の中に生きる。
そのことをふりかえって、心に刻むメモリアル。
それを、こうして、共有することもまた、ひとつのメモリアルだ。

そういえば、こんなことも思い浮かんでくる。

「はな」ということばは、出っ張ったところ、ものごとの先を表すことば。
・半島の先(たとえば、長崎鼻という地名)
・ものごとの先(出ばな、初っぱな)
「はなからあきらめないで」なんて言うではないか。
・はな=花=鼻!

私たちは、漢字で書いて、意味をわけることに慣れすぎている。
便利なところもあるけれど、母語として身につけたことばの起源がわからないまま、暮らしている。
もともと、ものごとの似たような光景や現象を捉えて、ことばが生まれたのだ。
共通のイメージを組み立て直すと、実感もわいてくる。

じぶんで、ひとりでに、身につくことがある。
身につけるとは、目的をもってしようとすることではなく、
身につく「結果」がおとずれること。
そんな思いを胸にして、歩くこと。
そして、もういちど、ふりかえり、とどめ、組み立てること。

そうすると、自然に、身につく。
身になる。
そう、実になっている。
結果とは、身を結ぶこと。
[いま] こうして、ふりかえり、それを組み立て直して、ことばにすることで。

1000回目指して歩くのではなくて、
1000回歩くうちには、いろんな未知に出会える。
花の名前も、そんなふうにして、身についている。
身につくとは、結びつくこと。

出典・参照:坂口和子『凌霄忌』、長谷川聡子『女人・石の仏 死ぬこともすばらしくありたい』、以下のエンパレットなど

「「思い出すから記憶になる」」

「声が思い出てくる(記憶は声に中に)」

「思い出すことは、じぶんをつくること」

「タイトル」

石川九楊『<花>の構造』、モーリス・メーテルリンク『花の知恵』、坂口立考『海の宮・エッセイ 細雨養花』

モーリス・メーテルリンク