Nothing is real without imagination.(想像のない現実はない)
見えないけれど、あるんだよ。
数は目に見えません。でも、あります。
数学に「虚数」という概念があります。
英語では、イマジナリー(想像の)ナンバーと呼びます。
日本語の「虚」という文字を見ると、なんだか本当ではない?という印象を受けますね。
存在しない数?
いいえ。ちゃんとあります。
そもそも、数はみな、イマジナリーです。
だから、わざわざイマジナリーと呼ぶのは、変です。
イマジナリー、つまり想像上のことは存在しない、と決めつけるのも、変です。
All numbers are imaginary.(すべての数字はイマジナリー)
虚数ってどんな想像の世界?
のび太:習ったんだけど、ことばがむずかしくて。
ドラえもん:ピンと来ない。
の:ていうかさ、何を言いたいのかがわからないんだ。
ド:そうだよね。
の:二乗すると-1になるっていうのは、つまり何を言いたいのかな、と。
ド:なるほど。そうだよね。
の:存在しない数なんでしょ?
ド:うーん。数に存在する、存在しないもないよ。
の:え?するの?しないの?
ド:聞くけど、「マイナスの数」は存在する?
の:うん、するよ。学校で習ったから。
ド:じゃ、ゼロは存在するの?
の:教科書に載っているよ。だれかが発見したんだって。
ド:割り切れない数は?
の:みんなどこかにあるんでしょ。
ド:数は概念だよ。
の:概念って、えーと。
ド:頭の中にある。
の:ぼくの頭の中にあるの?
ド:ルールでつながっていればね。
の:ルールでつながる?
ド:そう。のびちゃんの頭の中で、3つのイチゴと3という概念が対応すればね。
の:するよ、もちろん。
ド:対応のルールがあるから、わかる。
の:ルールなの、数って?
ド:そう。みんなが使えるルールがなかったら「自然数1、2、3」というのも無意味でしょ。
の:そりゃそうだけど。
ド:考えてみると変だよね。
の:何が?
ド:すべての数は、みんなイマジナリー。imaginaryだから。
の:イマジナリーって、想像のってこと?
ド:そう。
の:でも、虚数って、存在しない数なんでしょ?
ド:そんなことないよ。人間が想像できるんだから。
の:だから、想像上の存在でしょ?
ド:そういうと、マイナスもゼロも数直線も、ぜんぶ、想像上の存在。
の:だから、本物じゃなくて。
ド:想像したら本物じゃないのかな?
の:よくわからないけど、目に見えないから。
ド:紙に数字を書けば、見えるでしょ?
の:書いた時に存在するんだよ、じゃ。
ド:書いた紙を裏返したら?
の:まだ、あるよね。
ド:想像できるんだから、あるんだよ。
の:でもさ、虚数って座標にかけないでしょ。
ド:そんなことないよ。
の:どうやって?
ド:マイナスは数直線で表せたよね?
の:ゼロが真ん中で、右がプラス、左がマイナス。
Imagination is real.(想像は現実)
ド:虚数は、i という記号で、90度左回りに回転することにすればいい。
の:勝手に決めていいの?
ド:ぼくが勝手に決めるんじゃないよ。でもそうやって人間がルールにすればよい。
の:回転を表すって何?
ド:自然界で、波になったり、回転する現象はたくさんあるよ。
の:あ、それはわかるよ。
ド:その究極が、物質の世界。
の:どんどん小さくしていくと、見えない粒なんでしょ。
ド:この世の物質は小さな粒の振動でできている。量子というよ。
の:なんでイマジナリーな数がいるの?
ド:ものすごく小さな世界の動きは、数直線だと表せないんだ。
の:ふーん。回転ボタンみたいなものがあると表せるの?
ド:そんなかんじ。
の:ふだんの生活には、あんまり関係ないよねぇ。
ド:そんなことないよ。(*注1)
の:何がたいへんなの?
ド:粒がどこにいるかをつきとめきれないから。
の:見えないから?
ド:つまり確率的な存在だから。
の:確率的な存在?半分生きています、みたいに?
ド:壁の向こうにいるのか、こちら側にいるのかは、半分こっちにいます、みたいな。
の:あ、そうか。ひとりひとり、名前がついてないんだね。
ド:そうそう。ひとつひとつ別の粒でも、じぶんの存在を分け合っている。
の:それが数式であらわせるの?
ド:波の関数でね。
の:関数なの?
ド:関数というのは数字ではなくて、ふたつのものの関係。つながり方。
の:なんだか、見てきたみたいに、言えるんだね。
ド:見てきたみたいに言えるんだよ、想像するってことは。
Imagine life.(生を想え)
見えないけれど、あります。
量子は、見えないからこそ、想像できます。
心も、つながりも、想像できるときに、そこにあります。
出典・参照:Michael Brooks『The Art of More』、以下のエンパレットなど
(*注1)この宇宙を構成するのは、複素数(実数+虚数)で構築される理論である量子力学の世界。虚数 (i) を使って、量子の世界を記述できたことで、今日のエレクトロニクスがあります。スマホはその代表。メモリやディスプレイといった電子部品は、量子の世界を記述するシンプルな数式(波動関数)によって発展しました。