To err is human, indeed.(まさに、エラーは人間の証)
日記を書いていると、必ず起きることがあります。
書き間違えです。
スラスラと書いていると、うっかり、別の文字。
意図していない文字を書いてしまいます。
手が勝手に書いてしまった、みたいに。
こんな実験があります。
紙に、ひらがなの「お」をくりかえし書いてください。
できるだけ速く、どんどん書いていきます。
他の文字も試してみましょう。
ひらがなの「み」「あ」「す」、漢字の「大」など。
意外なことが起きます!
なぜ、突然、ちがう文字を書いてしまう?
私たちは、文字を書くことに習熟しています。
意識して書いているつもりでも、文字を書く行為自体は自動的。
はじめのうちは起きないけれど、続けて書いているうちに起きます。
似た運動の記憶が引き出されるのです。
運動のシークエンスが似ている文字。
ひとつの行為によって、似た行為が誘発されます。
このような意図しない行為のエラーを「スリップ」と呼びます。
人間の行動には、必ず、このようなエラーが発生します。
それは、ちょうど、意識と無意識の間。
無意識のフチで起きます。
文字の軌跡を眺めてみると、道をはずれたところがわかりますね。
ほんの0.1-0.2秒ぐらいの、短い時間。
そこに、無意識のフチがあります。
文字を書く行為に熟練しているからこそ、起きます。
「言い間違い」もおなじように、ことばを話すことに熟練しているからこそ、起きます。
英語では、言い間違えを、A slip of the tongueといいますが、まさに舌の運動が「スリップ」するわけです。
It always happens.(つねに起きる)
人間の日常行動には、必ずエラーがあります。
だから、すぐ間違いに気づき、起きてもカバーできて重大なミスを防げるようにすることが大事。
そのとおりですね。
でも、この実験は、もっと根本的なことに気づかせてくれます。
間違えが起きるようになることは、行為の習熟の証だということ。
無意識のフチに触れる、小さなアプローチでじぶんという存在の真実に近づけること。
それは、「ミス・エラー・間違い・失敗」の意味について、じぶんで考えるチャンスがあるということ。
We live on the edge of these moments.(瞬間のフチに生きている)
出典・参照:佐伯胖・佐々木正人編『アクティブ・マインド』、仁平義明『急速反復書字によるスリップの発生メカニズム』、以下のエンパレットなど
ことばを身につける ⑤ 「ほんの3分で変化が生まれる」(音の無意識のフチ)