Do it over and over.(それを、くりかえせ)
プラクティスの真髄は「くりかえし」です。
プラクティスは、姿勢、思い、技を身につける、行為が続いていくこと。
その意味で、プラクティスとは、練習、実践、習慣をあわせたことばです。
くりかえしは:
・くるくるとまわる、風車のイメージ。
・行きつ戻りつする、波のイメージ。
くりかえすとは、文字どおり、前半が「くる」、後半が「かえす」こと。
回転が続く様子、おなじリズムが持続する様子が思い浮かびます。
くりかえしは、ものごとを身につけるための必要条件です。
くりかえされないことが、身につくことではありません。くりかえされるプラクティスとは、単に回数が多い、ことではありません。
・短時間に、行為の回数が多いこと。
・ムダなく、ムリなく、ムラなく、続くこと。
・意識せずに、成果に後から気づくこと。
ところが、そのためには「がんばらないといけない」という発想に、つい、なりがちです。
実は、もっと大事なことがあります。
それは、くりかえされやすい状態をつくることです。
そちらへじぶんが導かれるように、はからうことなのです。
視点を変えてみましょう。
じぶんが「くりかえしている」という意識から、プラクティスが「くりかえされている」という意識へ。
じぶんではなくて、じぶんのいる状態に着目するのです。
それをひとことで言うと、「クリカエシビリティ」です。
聞き慣れないことばでしょう。辞書には載っていません。
英語で、ものごとの状態や性質を表す、〇〇ビリティということばがたくさんあります。(注1)
それをもじった造語です。(注2)
「くりかえしやすさ」こそ。
プラクティスの真髄は、プラクティスがくりかえされやすい状態をつくること。
その手入れをすること。
クリカエシビリティです。
じぶんの力だけではありません。
じぶんの身体、身のまわりの「自然の力」を借りているのです。
いちばん身近な自然の力は、空気です。
ふだんは考えてみることもない、空気。
空気があって、静穏、呼吸、音声、間あいが生まれます。
また、じぶんの力ではないことは、みな自然の力です。
回数、持続、循環。
空間と時間。
意外に思うかもしれませんが、「くりかえす」という行為は、そもそも、存在しません。
じぶんでできることは、1回1回の行為だけです。
それが続いていくことを「くりかえす」と呼んでいるだけ。
くりかえされて、はじめて、そのように言えるのですから。
それは、じぶんだけの力ではありません。
じぶんと共にある力に、ゆだねることなのです。
自力ではなくて、自他力(しぜんの力)が、クリカエシビリティ。
クリカエシビリティ = 障害 x 反復 x 持続
そのような感覚をイメージしてみることが、とても大きな支えになります。
その支えの上に、もうすこしかみくだいて、考えてみましょう。
3つの要素があります。
①行為のあり方(プラクティスがくりかえされる場)
まず、妨げるものを小さくすることです。
・静穏(しずかに坐る)(周囲のノイズは大きな妨げ)
・身体の力を抜く(頑張る意識を和らげる)
・心を落ち着ける(余計なことを考えない)
②反復のあり方(プラクティスの、くりかえされ方)
やり方を統一することでエネルギーロスが抑えられます。
定型のルーティンを持つことです。
・おなじ環境(おなじ場、おなじ時間)
・おなじテーマ(ひとつのテーマにそって)
・おなじ形式(内容・デザインの形式、単位、分量、配分、順番など)
・おなじ作法(ひとつの流れ・循環、姿勢)
くりかえす回数が多くなるためには:
・1回にかかる時間が短いこと
・何回でもすぐできること
・じぶんでふりかえって確かめられること
③持続のあり方(くりかえされたもののつながり)
大きな成果につながるためには、次のような要素が働くことに配慮します。
・周期的なリズム(毎日する)
・再帰的な持続(出し入れ)
・測定できる単位(何回したか、ふりかえれる)
再帰的とは、出力したものが、次の入力になることです。
あれこれ、バラバラにではなく、おなじ路の上で、一点に集中してくりかえすこと。
毎日するのは、足し算。
再帰的なくりかえしによって、掛け算になります。
再帰ということばは、ちょっとむずかしそうに聞こえますね。
でも、本当は、とてもシンプルなこと。
じぶんの声で、ひとことのことばを出すこと。
声に出す時、空気の力によって、じぶんでも聞いています。
それを書き写したり、メモや見出しをつけること。
これは、再帰です。
それが起きやすい状態が、クリカエシビリティ。
念ずれば花ひらく
自然の力は、クリカエシビリティ。
ゆだねて、手入れをすれば、花はかならず開きます。一日一回、心をこめた声ことば
一日一回、身をもってふるまい
そのじぶんを、ふりかえること。
Let it happen.(ゆだねて、起きるように)
出典・参照:『修養トレイルガイド』
(*注1)英語由来の〇〇ビリティということばが、日本語の中にも定着しています。〇〇性とか、〇〇力といったことばがあてはめられている場合が多くあります。ひとつ注意がいります。漢字の熟語によって抽象化されると、何を意味しているのか、もとの意味がわかりにくくなったり、意味を取り違えたりするからです。
〇〇ビリティの原義は、そのことばの動詞にあります。行為や行動、働きが「起こりやすいかどうか」という意味です。たとえば:
stability スタビリティ(安定性): stayしやすい状態、安定した状態
flexibility フレキシビリティ(柔軟性・適応性):flexしやすい、曲げやすい、変えやすい状態responsibility レスポンシビリティ(責任): responseしやすい、相手に応じられる状態
accountability アカウンタビリティ(説明責任): accountしやすい、説明がつくこと(後から説明すればよい、という意味に誤解されている)
(*注2)あえて、クリカエシビリティという造語を考案した理由は、くりかえす能力ではなく、くりかえされやすさにこそ、注目すべきだからです。また、英語の、再帰(recurse)ということばには、いろいろな専門分野で使われる一方、一般にはなじみが薄いため、このような表現によって、プラクティスの本質を掘り下げてみるためです。