I love ideas.(想像が楽しい)
ある講演会にて。
映画監督のデイビッド・リンチさんに、会場からの質問がありました。
「あなたの映画は、意味がわからないとか、理解できないとか言う人が多いと思います。その人たちに、どのようにお答えになりますか?」
「私はアイディアが好きです。
しっかりした構成のある話の中に、抽象がちりばめられているもの。
私たちは、中身を100%説明する話に慣れていますよね。
直観でこそ捉えられる美しさを、想像する余裕がなくなります。
映像と音がいっしょになって、ひとつのテーマをつくりあげる。
それは映画でしか、できないことです。それが美しい。
セリフだけでも、音楽だけでもない。
映像とそれらが織りなす全体。
そこに、それまで存在していなかったことが、現れてきます。
あなたの質問にもう一歩踏み込んで、お答えします。
大事なことは、私が何を言いたいか、ではありません。
あなたがどう感じるか、です。
ひとコマごとに、おなじ映像を並べたとしても、ふたつとおなじ映画表現にはなりません。
映画は、映像と、音と、観客、つまり、あなた。
この三者の輪によって、できているのです。
じぶんで感じとることです。
あなたの直観と感情が合わさり、それがあなたにとっての意味をつくりだすのです。」
映画を見ると、時々ありますよね。
意味のわからないこと。解説が欲しいこと。
ネットで「映画の解説」を探したりすることもあるでしょう。
便利なことに、手元のスマホで、いろんな情報がでてきます。
どこかのだれかが書いた解説や感想。
参考になるものも多々あります。
その反面、すっかり忘れていませんか?
じぶんで感じたこと。
それを、ふりかえること。
想像をめぐらせてみることを。
正解をひとつ、探していませんか?
じぶんの感性、じぶんの想像、じぶんの創造なのに。
芥川龍之介の小説に『藪の中』という作品があります。
黒沢明監督の『羅生門』という映画の元にもなっています。登場人物の語る内容が食いちがっているために、話の辻褄があわず、真相はわかりません。
そこで、読者・観客は、考えます。
・真相は何なのか?
・作者の意図は何なのか?
ものごとは、立場、視点によって、見えるものも、意味もちがいます。
そもそも、すべての人にとって、ピッタリとあう
It’s up to you.(あなた次第)
真実は、語りきれないもの。
たったひとつの真実、というものは、ありません。真実がひとつある、とだれもが信じているとしたら?
そのことを表現するためにはどうしたらよいでしょうか?
辻褄のあわないストーリーの中に、いくつもの真実のエピソードをちりばめる。
そのことによって、万人がわかるような辻褄のあう話はない、という真実が伝わるように。
なるほど、それが正解ね?
いいえ、ちがいます。
正解があるのではありません。
表現によって、想像が湧き起こる時に、ハッと気づくものがあるのです。
私たちは、つねに、想像の空間を生きています。
そのことを、すっかり、忘れてしまっています。
デイビット・リンチさんのことばは、それを思い出させてくれます。
It’s up to you.(じぶんで感じるように)
出典・参照:David Lynch responds (Youtube Video)、
People saying a film doesn’t make sense – David Lynch responds
芥川龍之介 『藪の中』