Natsume Soseki, age 29

Life is what happens now. (人生とは、今起きていること)

夏目漱石のエッセイ『人生』より。
趣旨に沿って、現代語で要約したものです。

この世界には、「物」と「事」がある。
空間の中にあるものを「物」と言い、時間に沿って起こることを「事」と言う。

人の心は、それらと切り離しては存在しない。
物や事の移り変わり、その全体を「人生」と呼ぶ。(❶)

むずかしく聞こえるが、実は身近なことだ。
地震や雷を怖いと思うこと、砂糖と塩の違いがわかること、
恋の重荷や、義理のしがらみに苦しむこと。
そういう一つ一つが、人生である。

しかし、その人生は人によってみな違う。
十人いれば十通り、百人いれば百通りの生き方がある。
同じ人生は一つとしてない。(❷)

のんびり昼飯を食う人もいれば、
席の温まる暇もなく、忙しく動き回る人もいる。
不満を抱く人、壮烈に生きる人、
頑固な人、世を軽く見る人、図太い人もいる。
挙げればきりがない。

しかも、人の行動は、見かけが同じでも中身は違う。
同じことをしていても、動機も違えば、結果も違う。
同じ死でも、立場によって呼び方さえ変わる。

だが本質は一つである。
人生は、そう簡単に分類したり、一つの理屈で整理したりできない。

小説は、その複雑な人生の一側面を描く。
そこから私たちは、人間や社会について多くを知ることができる。
境遇を描く小説もあれば、性格を写す小説もあり、
心理を解き明かそうとする小説もあり、
直感的に人生を見抜こうとする小説もある。

だが、それでも人生のすべては尽くせない。
人生には、心理分析や直観だけでは届かない、不可思議なものがある。

人は、ときに自分でも理由のわからぬまま動く。
なぜ手を振り、なぜ目を動かしたのか、
自分でもわからぬことがある。
意志を離れ、突然に起こり、不意にやって来るものがある。

世の中はそれを狂気と呼ぶ。
だが、それは特別な人だけのものではない。
誰の中にもある。

人は自分を知っているつもりで、実は知らない。(❸)

他人を馬鹿だと笑う者も、自分もまたいつでもそうなりうることに気づかない。
当事者は迷い、傍から見れば笑える。
だが、立場が変われば同じことである。

人は夢を見る。
しかも夢は、夜の寝床にだけ来るのではない。
昼にも来る。
青空の下にも、大通りの真ん中にも、
人前のただ中にも、突然入りこんでくる。(❹)

どこから来て、どこへ去るのかもわからない。
だが、人生の真相はそうした思いがけないものの中に隠れている。

人の行動は、意志で決まると思われている。
だが、ある瞬間、秩序も思慮も分別も消え、
ただ盲目的に動いてしまうことがある。
それが本当に自分の意志によるものかどうかは、わからない。(❺)

創る者もまた同じである。
苦しみぬいた末に、突然ひらめきが訪れる。
喜びのあまり、叫び、歩き回り、涙を流すことさえある。
それをインスピレーションと呼ぶ。
だが、それが人の意志なのか、何か別のものなのか、よくわからない。

人は、自分がどれほど善く、どれほど悪いかも知らない。
何が起こっても驚くまいと思っていても、
いざ事が起これば、思いがけず怯える。

臆病と思われた者が突然強くなり、
勇ましい者が土壇場で崩れることもある。

人の行動は、理屈では言い尽くせない。(❻)

人生は、数学のようには説明できない。
材料を並べたからといって、答えが出るものではない。

小説もまた、人生をすべてを説明するのではなく、
ただその一つの筋道を示すにすぎない。

思いがけない出来事が外から起こり、
思いがけないものが内から湧き上がる。

外に地震や津波があるように、同じ揺れが人の中にもある。
人生とは、その予測できない揺れを抱えたまま進んでいくことである。(❼)

Embrace life as it is.(そのまま大切に)

* *

以下の7つに集約されています。

❶ 物や事の移り変わり、その全体を人生と呼ぶ。
❷ 同じ生き方は一つもない。
❸ 人は自分を知っているつもりで、実は知らない。
❹ 夢は夜だけでなく、昼にも突然あらわれる。
❺ 自分の意志か、自分の力か、わからない。
❻ 人の行動は、理屈では言い尽くせない。
❼ 人生とは、予測できない揺れの中を進んでいくこと。

❷ 「同じ生き方は一つもない」に励まされます。

じぶんらしく生きるしかない。
だれも代わりようがない。
かけがえがないのです。

でも、じぶんらしく生きるとは?

じぶんらしさは、はじめからあるものではない。
思いがけない揺れの中を進む時に、少しずつ、つくられていくもの。

揺れのない人生はありません。
人生に正解はない。

同じ生き方は一つもありません。
揺れの中を進めばよいのです。

Be yourself. There is no one life like yours. (同じ生き方は一つもない。)

出典・参照:「青空文庫」掲載 夏目漱石・第五高等学校『竜南会雑誌』(明治29年10月)、以下のエンパレットなど

Life happens (人生は動詞)
「人生の目的は幸福」ではない
脳を活性化させるしくみ ① [山路を登る](夏目漱石『草枕』)
意味って何?② [物事はしたことに意味がある]
夢の話が不思議というより、不思議に思わないから夢。
インナースピーチ(1)思考を形づくる心の中のことば