
Mother’s milk is a two-way conversation.(母乳は、母と子の双方向の対話)
赤ちゃんは、母乳を飲む。
母親が赤ちゃんに乳を授ける。
だから「授乳」と言います。
母乳は赤ちゃんの食料。
母親が栄養を与え、赤ちゃんがそれを受け取る。
そう思っています。
ところが、母乳は単なる食料ではなかったのです。
母乳の研究者 Katie Hindeは、こう言います。
「母乳は栄養だけでなく、母子の間で生物学的な情報を伝える役割も果たしている。」(*注1)
赤ちゃんは、ただ母乳を飲んでいるだけではなく、母親の身体に情報を送り返しているのです。
どうやって?
赤ちゃんが乳を吸うとき、唾液に含まれる微生物などが母親の乳管に入り込むことがあります。
赤ちゃんの口から、母親の身体へ。母乳が流れる方向とは逆向きです。
赤ちゃんは、母乳を飲みながら、母親に情報を送っている。その情報を受け取った母親の身体が、母乳の成分を変える。
母乳を通じて、母と子は情報もやりとりしているのです。
赤ちゃんが感染症にかかると、母乳中の免疫細胞が増えることも報告されています。
母親が与え、赤ちゃんが受け取る。そう思っていたら、赤ちゃんも母親に働きかけていた。
母乳を飲むという、一見、一方通行に見える行為の中に、双方向のやりとりがあったのです。
授乳と聞くと、母乳は赤ちゃんに栄養を与えるものだと知っている。それ以外の働きがあるとは想像できません。
でも、こんな話を聞くと、私たちはいかに、ある考え方に囚われているものかに気づけます。
授乳ということばを知っているために、気づかない。まさか、反対方向の流れがあるとは。
これもUnlearningです。
作(文・挿絵・声にだすことば・声):坂口立考
出典・参照:Katy Hinde「What we don’t know about mother’s milk」(TED講演2016年)
(*注1)Katie Hindeは、母乳を進化生物学の観点から研究する科学者。母乳が栄養だけでなく、免疫や発達に関わる多様な生物学的機能を持つことを紹介しています。母乳をFood(食物)だけでなく、Medicine(防御・生理活性物質)、Signal(情報)として捉え、「母乳は情報でもある」という視点を提示しています。
授乳中に赤ちゃんの口腔内の微生物などが乳管に移動する可能性は、Retrograde Inoculation(逆行性接種)という仮説で説明されています。また、赤ちゃんの感染時に母乳中の免疫細胞が増加することも報告されています。
