Empathemian, 『耳と目の結婚』

Left and right work together. (左と右の協働)

よく、こんなことが言われます。
・大脳は思考、小脳は運動をつかさどる。
・右脳は、想像力や感情。
・左脳は、論理や計算。

機能を分解してあてはめると、誤解も生まれやすくなります。
脳は統合されたひとつの働きです。
各部署が連携して膨大な情報を瞬時に、絶え間なく処理しています。
右脳と左脳があるのではなく、大脳に右半球と左半球があるのです。

よく、「言語は左脳の働き」と言った説明もありますが、これも誤解を生む表現です。
左半球には、単語や文字を司る言語領域がありますが、言語活動は、読み書きだけではありません。

ことばは、息で音声を生成する運動です。
また、音・リズムをイメージと結びつけることです。
記憶であり、想像であり、五感の身体感覚、感情と結びつけ、刻々と瞬間的な処理をしていく営みです。

左半球は、 情報を認識し、知識として整理する役割がありますが、右半球の活発な働きが左半球と連携することで、言語を操ることができます。
右半球が処理する音とイメージの記憶と連携して、膨大な量の記憶が可能となるのです。

「言語を操る能力は左脳にある言語野に依存しており(*注1)、感覚や感性の処理を行う右脳には関係がない」という考えは、大きな誤解です。
言語は、大脳の左半球だけでなく、小脳から右半球がクリティカルな働きを担っています。
右半球の担当領域は:

・音、リズム、抑揚、トーン、感情。(パラ言語的要素)
・メロディ、テンポ、音階、音色。(音楽的な要素)
・身振り、手振り、表情。(非言語的要素)

右半球は、これらの全体感を瞬時に、総合的に捉える働きを果たします。

ことばを使う時、言語野だけでなく脳全体が活性化しているのです。

ふだん私たちは、脳の仕事を意識していません。
また、意識して、右脳とか左脳とかを使い分ける、といった芸当はできないのです。

Empathemian,『学習者の自覚アイコン』

Replicating. Becoming. Comparing. Reflecting.(まねる、なりきる、確かめる、ふりかえる)

ところが、第二言語(たとえば、英語)を身につけようとする時、このことが重要な意味を持ってきます。
英語の文字を読めば簡単にわかるのに、「聞き取れない」のは、ネイティブ脳のように音とリズムの処理ができないからです。
瞬時に音の全体感を捉え、イメージできるためには、右半球を活性化させる必要があります。
文字・知識の処理ばかりに脳全体の活性化が偏っていると、使えないのです。

ふだんの習慣の中で、右半球の働きを活性化させるような練習は十分できます。
それは、まねることです。
まねるとは、全体感をそっくり似せること。
脳内に音のレプリカをつくるイメージです。

母語を身につける方法は、ひとつしかありません。
それは、両親のことばをまねることです。
ことばが未発達な3歳前後の幼少期、右半球の働きが活発になります。
本来、英語を学ぶにも、おなじプロセスをへる(練習する)必要があります。

エンパシーム英語トレイルは、幼児がことばを身につける過程を再現するプラクティスです。
ただ単にネイティブ音をリピートするだけでは、右半球は活性化しません。
手本の声のセリフを再現して、その役になりきる練習が不可欠です。

なぜかと言うと、「文字や単語の組み立て、理解」の左半球偏重になっていて、
音節がつながってできるリズムの全体イメージを瞬時に捉える、右半球を活性化させるトレーニングが必要なのです。

脳の中に英語の回路をつくるイメージです。

エンパレットでは、インナースピーチについて多くの紹介をしてきました。
インナースピーチは、脳で即座に再現できることば。口をついて出てくる、セリフです。

「よく使われるフレーズを覚える」というだけではありません。
インナースピーチ化は:

・対話式に場面を想像するトレーニング
・0.1秒単位の音節リズムを捉えるトレーニング(*注2)
・役を演じることで、うまくいかないところに気づくトレーニング

これらはみな、右半球を活性化させるトレーニングです。
幼児は、いきなりことばを、それも読み書きを覚えるわけではありません。
拙いところから、失敗をくりかえして、だんだんできるようになります。
そこに、脳を発達させ、活性化させるプロセスがあります。

はじめ、「耳と目の結婚」という古代史・民俗学のストーリー(1)から、ことばの起源、脳科学(2)をへて、認知科学・言語習得のテーマ(3)をへて、日々のプラクティスに行き着きました。
人間の心と身体の原理は不変です。
プラクティスがじぶんに変化をもたらすのです。

出典・参照:、英語トレイルガイド、以下のエンパレットなど

耳と目の結婚(1)[スリリングなストーリーの入り口]

耳と目の結婚(2)(言語の出生地)

耳と目の結婚(4)イメージとリズムの強い連携づくり

インナースピーチの関連エンパレット集

(*注1)ブローカ野は、外科医ポール・ブローカが発見した脳の領域で、言語処理機能や音声言語生成。ウェルニッケ野は、大脳の一部で、知覚性言語中枢とも呼ばれ、他人の言語を理解する働きをする部位、といった説明。

(*注2)ことばの聞き取りに、最もクリティカルな要因は、リズム。リズムは時間。音節のくぎれ、リズム。

The role of rhythm in speech and language rehabilitation: the SEP hypothesis