Empathemian『I am in my hippocampus』

You are all you remember.(じぶんとは、思い出すことのすべて)

記憶のサイエンス。脳科学や心理学の研究成果による有益な知見がたくさんあります。
それらをもっとじぶん自身の学習に役立てるには?本を読んだだけでは何も起きません。
どのようにプラクティス(実践)するのかについて、しっかりした手助けがいります。
いつものように、のび太とドラえもんの対話形式に図解をまじえ、4回シリーズでお届けします。

のびた:ねぇ、ドラえもん。ことばってどうやって覚えるの?
ドラえもん:どうしたの、急に?
の:なかなか覚えられないんだよ。
ド:何が?
の:英単語。覚えたつもりでもすぐ忘れちゃう。
ド:いいこと教えてあげようか?
の:え?記憶の秘密があるの?早く教えて!
ド:先に言っとくけど、別に秘密じゃないよ。
の:記憶ってたくさん覚えることでしょ。
ド:大切でないことは忘れることも、記憶のうち。
の:忘れることも?
ド:そうだよ。1週間前に冷蔵庫に入れたものを忘れていなかったらどうなる?
の:頭の中がいっぱいになっちゃうのか。。
ド:そういうこと。短期的に覚えておいて大切なものは長期の記憶にするんだ。(*注1)
の:脳の中でやってるんでしょ。
ド:そうだよ。でも脳みそに何か書いてあるわけではない。
の:じゃ、どうなっているの?
ド:神経回路のつながりだよ。細胞同士のつながり方が変化すること。

Empathemian『じぶんの中』

の:大切かどうかってどうしてわかるの?
ド:のびちゃんが、脳ミソだったとしたら、どうやってわけると思う?
の:遊んで楽しかったことから順にだよ。
ド:そうだよね。じぶんで身体を動かして体験したことは印象が強い。
の:じぶんでやったことか。文字を読むより、絵や音があるほうがいいよ。
ド:そう。たとえば、歌わずには、歌の歌詞を覚えられないよね?
の:いいメロディはかんたんに覚えられるね。リズムがあるから身体で覚えるの?
ド:身体をつかって五感を働かせると、脳に強い印象が伝わるんだね。

ド:じぶんに関係あることが大切。じぶんと関係ないと思うと、覚えないよね。
の:英語の勉強は、学校のテストに出るから大切なんだけどなぁ。
ド:でも、脳みそののびちゃんには、その気持ちが伝わっていないんだね。
の:まぁ。勉強は楽しくないし、文字の記号を暗記するだけだとあくびがでてくるよ。
ド:うん。でもそれ、ふつうだよ。五感をしっかりつかった体験は覚えているもの。
の:そうでないものは、日にちがたつと忘れちゃうんだね。
ド:のびちゃんは、日本語も単語帳でおぼえたんじゃないよね?
の:そんなわけないよ。でも、何もせずに、知らないうちに覚えてたの?
ド:何もせずにじゃなくて、しぜんに体験を通してじぶんで覚えたんだよ。
の:でもさ、大切かどうかわからずに、どうして忘れないの?
ド:歩くとか話すとか、身体を動かすことは毎日、数えきれないぐらいくり返してきたから、深く刻まれているんだよ。(*注2)
の:たった何回かの体験だと刻まれないの?
ド:ふりかえり、思い出して、他のいろんなことと結びつくと、記憶は定着するよ。

の:話は少しわかったような気がするけど、何をすればいいの?
ド:体験すること。そのつもりになってみること。
の:うーん。そのつもりって?
ド:じぶんのセリフとして演じてみること。
の:あぁ、演劇みたいに?
ド:そうだよ。気持ちを込めて、セリフにしてふるまう。そうすると体験の記憶になるよ。
の:文字を読むんじゃないの?
ド:相手に語りかけるように、じぶんがそのことばを演じれば、ぜんぜんちがうよ。
の:声に出すっていうのは、じぶんでも聞いているってことなの?
ド:そもそも、ことばは声の身体運動。身体動きと音のパターンとイメージがつながるんだ。
の:ぼくの脳の神経回路がそのつながりをつくっているの?
ド:そうだよ。脳は神経細胞 1000億個でできた回路。それが100兆のつながり(シナプス)をつくってるんだってさ。
の:ぼくの脳みそでも、そんなにあるの?
ド:うん。脳の中に「海馬」っていう場所がある。まずそこで記憶して、そこで仕分けするんだ。(*注3)
の:そういえば、脳の細胞はどんどん死んでいくって聞いたよ。
ド:使わないものはね。でも、使えば使うほど神経細胞は増える。
の:ふーん。でもさ、大切なことで覚えたことを忘れないようにするにはどうするの?
ド:記憶のしくみの、理にかなったやり方(順番)を身につけること。
の:でもさ、脳の細胞に直接頼めないんでしょ。
ド:他人事のように言わないでさ、身体全体でいっしょにやっていると思えばいいんだよ。
の:その気持ちになりたいけど。
ド;姿勢は合図。これ大切です、って海馬に伝えているとおなじこと。
の:ぼくの脳みそっていうより、脳みそもじぶんっていうふうに思いなさい、って言ってるんでしょ?
ド:それが姿。姿勢を身につけると、ものすごく覚えやすくなるよ。

記憶のサイエンスとプラクティス ② ことばをとどめるとは?へつづく

英語習得の最大のボトルネックを克服する「2秒」

出典・参照:『英プラを詳しく知ろう」「言語と音声のサイエンス」

池谷裕二『記憶力を強くする』、酒井邦嘉『言語の脳科学』

Alan Baddeley 『Working Memory』

Veronica O’Keane『A Sense of Self: Memory, the Brain, and Who We Are』

(*注1)記憶は、階層化されています。まず短期記憶(とくに作業記憶)され、仕分けされて、長期記憶へ。作業記憶は、ワーキングメモリとよばれます。音声は聞いているそばから消えてしまいますから、その一瞬のうちに、いったん覚えて、高速で処理する必要があります。2秒ぐらいの時間がその作業現場です。2秒以上かかることばは一度に覚えられません。文字で覚える時も、心の中で音に変えて出力するプロセスがあります。処理スピードが遅いと聞き取れない、ということにもなります。このため、チャンク(まとまり)にして、覚えるといった働きが使われます。ワーキングメモリは、ことばを覚える(長期記憶に入れ、また随時そこから引き出し使うための、作業現場です。別のエンパレットでも紹介します。

(*注2)何も考えずにできる、無意識的な記憶は、「手続き記憶」と呼ばれます。私たちは、くりかえし身体を使って身につけた記憶によって生活しています。

(*注3)海馬は、大脳皮質の内側、両耳の裏側あたりにあります。左右ひとつずつ、長さ10センチぐらいの大きさ。英語ではHippocampusと呼ばれます。タツノオトシゴ(海馬)のような形をしていることから。

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