演じる心得 / 12.思い出してテンポよく / 思い出してテンポよく

思い出してテンポよく

「日常会話」ということばをよく耳にしますが、あらゆる人のすべての日常と言われても、とても漠然としています。一見、日常のやりとりやそこで使われることばは無限に広がるように思えます。しかし、実はそうではありません。日常会話は、驚くほど限られたパターンに集約されます。

日常会話空間には2つの特徴があります。1つ目は定量的な特徴です。話ことばは、上位500語の使用頻度が会話全体の80%を占めます。一方、全単語の50%は、使用頻度が0.0001% (100万分の1) 、80%は0.001% (10万分の1) 以下。日常英会話とは、驚くほど極端な偏りがあるのです。

さらに、会話全体の頻度の50%以上は、機能語(you, I, me, can, will, it, that, a, the, to, on, in, of…など、単独では意味を持たず、フレーズとして意味を生むことば)です。これらは例外なく、日本語耳のままでは捉えきれない、弱く短い音節です。

文字で見れば簡単な単語でも、そもそも音としても捉えづらく、セリフ場面のコンテクストが想像できなければ、意味もピンとこないーいわば二重苦なのです。

2つ目の特徴は、場面とセリフのパターンです。一見、日常会話は無数にあるように見えますが、実際は、二人の会話 (ダイアローグ)と一人の回想や情景描写 (モノローグ)の2つに集約されます。

この中で重要なのは、セリフが「コンテクストを直接表しているか」「相手の想像に委ねられているか」という違いです。例えば、That’s what it is. のようなセリフは、単語だけでは意味がつかめません。場面コンテクストの中で初めて理解できます。ここに、英語耳を育てるための大きな壁があります。

この壁を越えるためには、想像しながら声を出す練習が欠かせません。ポーション (9) 「場を思え コンテクストに 意味宿る」で述べたように、場面を想像し、情感を込めてセリフを演じることで、自然なイントネーションが生まれ、状況と結びついた音とイメージのスキーマが育ちます。

さらに、ポーション(8)「一瞬の 処理スピードが 命なり」で示したように、短いセリフを覚え、即座に思い出して声に出すドリルは、脳に適度の負荷をかけ、認知キャパシティを広げます。テンポよくアウトプットすることで、ワーキングメモリの処理能力が鍛えられます。

文字で知る単語ではなく、音と場面を瞬時に想像し、再現する練習が「聞く・話す」力を育てます。短時間に集中し、テンポよく思い出すことが、認知を鍛えるカギです。

Visualize the scene, keep the tempo.
(思い出し 認知鍛える テンポかな)