
エンパシームへの路
私は、スマホ登場以前より携帯、スマートフォンの発案・開発に関わりました。全世界にむけ、XPERIAシリーズを含む200機種、5億台の商品、技術開発を指揮、事業・経営の責任者をつとめました。私はそこで、技術だけではたどりつけない「人間とテクノロジーの溝」に気づきました。そして、その溝は、人間に備わった力を引き出すことによってしか、克服できないことを痛感したのです。
2012年、米国シリコンバレーにSomniQ, Incを設立して以来、従来とは異なる総合的なアプローチを独自の研究開発によって模索してきました。人間と機械が共に働き、自然な流れをつくることで、ふだんは気づいていない人間の力(声にする、間あいを入れる、相手に共感する)方法「エンパシームメソッド」を、広く活かす方法を追い求めてきたのです。
8年あまりの研究開発・制作をへて、米国、日本で発明特許を取得しました。これにあわせて、音声・言語・心理・哲学の研究をもとに設計、著作・制作を手がけ、私自身の30年余の実体験をもとに構想し、多くの協力・参加をえて実現したものが英プラ、毎プラです。
2020年9月より、エンパシームメソッドに基づく「英プラ」(英語と日々の習慣を身につける)を主宰。英プラをはじめとして、だれもが日々の「小さなプラクティス」で、身近な世界に関わり、助けあうことができます。みんなのエンパシームで社会が変わるー新しいイノベーションをめざしています。
ここ至るまでには、多くの失敗と苦難、そして葛藤がありました。が、エンパシームのおかげで、毎日、じぶんにむけて声にすることで、じぶんの使命に気づきました。それは、現代生活においてこそ、技術と日常の実践をしっかりと結んで、共感のつながる、あたらしい路をひらくことです。「毎プラ」も「英プラ」も、そこから生まれてきたものです。

声のことばが希いになる
実は、私には長い間、じぶんでも気づいていなかった「希い」がありました。
20歳の時、父が病気で不随になり、声を発することができなくなりました。
私は無力感に苛まれながらも、父が他界するまでの5年間、「ひらがな文字盤」を使い、手と息とまなざしで、ふれあうことを学びました。これが「エンパシーム」の原点です。
そのことに気づいたのは、10年前に、姉が急逝したことです。開発した新しいスマホを世にだしている間に、いちばん身近で大切な人がある日突然、消えてしまいました。ネットスマホ社会の「希いの場」という意味あいをこめ、スマホを「エクスペリア」と名づけた自分の思いとは裏腹に、私は何ひとつ、姉の助けになることができませんでした。その喪失感と挫折感に苦しんだことで、私ははじめて「存在のありがたさ」に気づきました。
そして、4年前、母の臨死がありました。前例のない「日々の習慣を身につける社会事業」の応援者であり協力者である母を、いったん失いました。が、救命で蘇生しました。母とわかちあうエンパシームによって、私はじぶんの使命に気づいたのです。
私たちは、じぶんのためにだけでなく、ひとのために生きている。そのことを、そのままじぶんにむかって声にして、語ることばが「私の希い」になりました。


共感の路をひらくために
エンパシームファウンデーション代表 / エンパレット著者
坂口 立考
