プロフィール

坂口立考(さかぐちりっこう)

1963年 福岡県生まれ。海外在住36年をへて、東京在住。メキシコ・スペイン(10年)、スウェーデン(10年)、アメリカ(16年)で暮らし、学び、仕事をしてきました。

2012年、SomniQ, Inc. (US)創業、2018年、SomniQ 株式会社 (日本)創立。Founder & CEO

2002から2011年まで、Sony Ericsson Mobile Communications (スウェーデン)にて、Executive Vice President & Chief Creation Officer, グローバル全社開発指揮、携帯/スマホ事業責任者 (6億台)

Be the change you wish to see in the world!

現在は、人がじぶんで気づき、その気づきに人がよりそえるプラクティス基盤「エンパシーム」の研究開発と実践に取り組んでいます。サイエンス、ことば、リベラルアーツの探究、発明・特許、データサイエンス、長年にわたる多言語の実践を結びつけながら、声とふるまいをあとからたどれるようにし、自助・自覚・自走を育てるしくみをつくっています。

論考と探究
創作/著作
英語耳°トレイル®制作

エンパシームの原点

エンパシームの着想は、4歳の時に出会った「魔法の箱」に遡ります。それは、父が家に持ち込んだソニーのテープデッキです。録音した声を初めて耳にした瞬間、「その中にじぶんがいる!」という強烈な感覚が走りました。その記憶は今でも鮮明です。以来、父の仕事の関係で手にした英語のテープを使い、「音をまね、じぶんの声を録音して聞く」という遊びが、私の英語耳の原点であり、「エンパシーム」着想のタネでした。いまふり返れば、それは、じぶんでやって、じぶんで気づくというプラクティスそのものでした。

16歳でアメリカへ渡り、現地の学校に一つ飛び級して入学しました。そのまま、アメリカの大学、そして大学院まで行こうと思っていました。父の教えに導かれ、父の尽力で開かれた道でした。父が倒れたその日から、その道はもうありませんでした。父が、半身不随と構音障害(声が出せない障害)を患ったのです。脳は正常でも、声を発することは叶いません。脳の中にはことばの声があるのに、それが見えない。父が他界するまでの長い日々、ひらがな文字盤を使い「手・息・まなざし」を頼りにことばを交わしましたが、自助しようとする父を、思うように助けられない無力感に苛まれました。閉ざされた自分の道への挫折感も、消えてはいませんでした。それでも、父とやり取りを重ねるうちに、父の脳では私の声が再現されていることがわかりました。声になる前の、わずかな仕草やかすかな気配にこそ、ことばを超える深い意味が宿っている。それに気づいたのも、この日々でした。

その頃、私はソニーに入社し、入社初日に会長の指令で1年間の同時通訳訓練を命じられました。日々の業務をこなしながら、脳の処理力・記憶力に極限まで負荷をかけるトレーニングでした。「聞く」という行為は、瞬時に消えゆく音を脳内で再現する、一度きり(Now or Never)の出来事です。「話す」という行為もまた、その都度ごとの一度きり。一方で、「読む・書く」はリアルタイムの時間制約がなく、何度でもやり直しがききます。この経験を通じて、ことばを習得するとは、一度きりの瞬間をくりかえしプラクティスすることなのだ、という厳然たる真理に気づかされました。

ことばは、知識を知っただけでは声になりません。聞き、まねて、声にし、また聞く。その一度きりの瞬間を何度もプラクティスすることで、少しずつ内側に身についていきます。40年以上にわたる英語・スペイン語での実務と、多くの人の英語の声によりそう経験を通して、この原理を確かめ続けてきました。

その20年後、私はスマートフォンの開発を指揮していました。テクノロジーは「入力が出力を生む」しくみです。しかし、人は「気づいていないこと」を自ら入力することはできません。また、テクノロジー(コンピュータ)も、明示的な入力がなければ、何かを出力することはできません。これが、人間とテクノロジーの共通する制約でもあります。

では、どうやって「気づいていないじぶんのふるまい」に気づけるのか?これこそが私の探求の原点であり、SomniQ創業のビジョンです。多くの人が「うまくなりたい」と願いながらも、自らのふるまいが上達を拒んでいることに気づけない。だからこそ、じぶんをふりかえり、気づきを促す「鏡」が必要なのです。

ヒントは、病床で父が語った「形端影直」(けいたんえいちょく)ー「形が正しければ、そのまま、影にうつる」ということばにありました。「形(ふるまい)」は「影(データ)」に現れる。しかし、影だけをつくることはできない。このことばの通り、プラクティスするじぶんの姿形を影として映し出すしくみをつくれば、それを利用して助け合える。すべては、行為の状況・内部・経緯(コンテクスト)に顕れているのです。

エンパシームのPurpose

2012年、石川英憲とともにSomniQを創業しました。以来、私たちは「本当に鏡のように映し返される方法」を求め、試行錯誤を重ねてきました。単なる比喩の「鏡」ではなく、人間の肉声とふるまいを再現可能な形でデータ化し、映し返して気づきを促すしくみをつくる挑戦です。その結実が、プラクティスを助ける「共感的な」しくみ、エンパシーム(Empatheme®)です。共感的とは、人間とAIが明示的なやりとりに加え、状況を表す暗黙的な合図(プロンプト)を互いにやりとりできることです。

ことばが生まれる状況を共有しなければ、AIはその人にとって本当に親身に役立つことはできません。また、人間もAIに心を開き、たずねたり、教えたりすることができません。AIは、明示的な言語で要件や意図を伝える仕事では大いに力は発揮します。しかし、人間と何気なくやりとりを生み出すことができません。なぜなら、やりとりはAIだけの問題ではなく、人間とAIとの相互作用だからです。AIには姿勢や表情、仕草がなく、人間もまた、AIに対して自身の姿勢や表情、仕草を伝える手段を持ちません。だからこそ、共にふれあい、コンテクストを生み出し共有できるためのテクノロジーが不可欠です。しかし、それだけでは十分ではありません。テクノロジーの構築だけでなく、人間の洞察(発見)とシステム側の設計(発明)の両面からアプローチし、実際に「プラクティス」の環境を提供することこそが、エンパシームの希い(Purpose)です。

Hidenori Ishikawa portrait

石川英憲 (いしかわひでのり)

1970年 広島県出身。
カリフォルニア州パロアルト市在住。
SomniQ CTO
エンジニア、アントレプレナー

2025年〜 立命館大学客員教授
2012年~ SomniQ CTO 発明・研究開発・制作・サービス運営 
2012年以前 Sony Ericsson、ソニーにて技術戦略担当

半導体の基礎から商品応用にわたる技術開発と市場導入に携わり、新技術・製品の事業化を推進。

活動

現在、共創AIとしてのエンパシーム技術を応用した英語プログラムの事業化を進めており、その中核の「エンパシーム・ラボ」を立ち上げ、研究・開発・実証活動を展開中です。エンパシームデータを用いて英語学習者を支援するプラットフォームの開発を推進し、人の無意識のフチが織りなすエンパシームデータを活用した、新しい学習支援の方法の確立を目指しています。

これまで、心理学、脳神経科学、音声学、学び・習慣の科学とエンパシーム技術を融合し、新しい研究領域の開拓を目指してきました。
東洋大学と共同研究では、授業の開発に合わせてエンパシームの実証実験を行い、論文が工学教育誌で採択されるなどの成果を収めました。2023年には、第2言語習得メソッドにおいて、従来は取得が困難だったデータをエンパシームで視覚化し、その分析により学習者を支援できる可能性について言及した論文を公開しました。
現在は、立命館大学のロボット工学研究室と連携し、人間の行動や生体信号とエンパシームデータとの関係について研究を進めています。

こうした研究活動を通じて私たちが目指すのは、技術の進化にとどまらず、人が自分の無意識と向き合い、心の調律を行えるような新しい体験の創出です。世界中の人が、たとえ短い時間でも心の平穏を感じられるしくみがあれば、それは平和な社会の実現にもつながると、私は確信しています。エンパシームは、その時間を具体的かつ現実的に生み出すことができるということを実証するため、日々、その研究と開発に取り組んでいます。