プロフィール

坂口立考(さかぐちりっこう)

1963年 福岡県出身。海外在住35年をへて、東京在住。
(メキシコ・スペイン10年、スウェーデン10年、アメリカ15年)

2012年、SomniQ, Inc. (US)、2018年、SomniQ 株式会社 (日本)創立。Founder & CEO

2002-2011年、Sony Ericsson Mobile Communications (スウェーデン)

Executive Vice President & Chief Creation Officer, グローバル全社開発指揮、携帯/スマホ事業責任者 (6億台)

Be the change you wish to see in the world!

サイエンスやリベラルアーツの探究に加え、自らの学術論文や発明特許の成果も活かしながら、人間の洞察と「共創AI」の構想に取り組んでいます。その一環として、中学生から一般の方に向けて、日常の行為・やりとりを通じて、ことば・脳・身体/環境/AIの相互作用を探究する論考と探究のアーカイブを構築中です。人と共感的するAIが協働する日常世界を目指して、学習者、支援者、研究者の輪を広げています。 創作/著作英語耳°トレイル®制作

エンパシームの原点

エンパシームの着想は、4歳の時に出会った「魔法の箱」に遡ります。それは、父が家に持ち込んだソニーのテープデッキです。録音した声を初めて耳にした瞬間、「その中にじぶんがいる!」という強烈な感覚が走りました。その記憶は今でも鮮明です。以来、父の仕事の関係で手にした英語のテープを使い、「音をまね、じぶんの声を録音して聞く」という遊びが、私の英語耳の原点であり、「エンパシーム」着想のタネでした。

16歳の時、私は大学院を目指してアメリカに渡りました。が、その希望は途中で絶たれました。帰国後、父の不治の病が私を待っていました。半身不随と構音障害(声が出せない障害)を患い、「声のことば」を失いました。脳は正常でも、声を発することは叶いません。父が他界するまでの長い日々、ひらがな文字盤を使い「手・息・まなざし」を頼りにことばを交わしました。助けたくても助けられない無力感から、次第に「声を見えるようにしたい」という希いが芽生えました。そして、人が声を発する以前のわずかな仕草や、かすかな気配の中にこそ、ことばを超える深い意味が宿っていることに気づいたのです。

その頃、私はソニーに採用され、入社初日に会長の指令で1年間の同時通訳訓練を命じられました。日々の業務をこなしながら、脳の処理力・記憶力に極限まで負荷をかけるトレーニングでした。「聞く」という行為は、瞬時に消えゆく音を脳内で再現する、一度きり(Now or Never)の出来事です。「話す」という行為もまた、その都度ごとの一度きり。一方で、「読む・書く」はリアルタイムの時間制約がなく、何度でもやり直しがききます。この経験を通じて、ことばを習得するとは、一度きりの瞬間をくりかえしプラクティスすることなのだ、という厳然たる真理に気づかされました。

その20年後、私はスマートフォンの開発を指揮していました。テクノロジーは「入力が出力を生む」しくみです。しかし、人は「気づいていないこと」を自ら入力することはできません。また、テクノロジー(コンピュータ)も、明示的な入力がなければ、何かを出力することはできません。これが、人間とテクノロジーの共通する制約でもあります。

では、どうやって「気づいていないじぶんのふるまい」に気づけるのか?これこそが私の探求の原点であり、SomniQ創業のビジョンです。多くの人が「うまくなりたい」と願いながらも、自らのふるまいが上達を拒んでいることに気づけない。だからこそ、じぶんをふりかえり、気づきを促す「鏡」が必要なのです。

ヒントは、病床で父が語った「形端影直」(けいたんえいちょく)ー「形が正しければ、そのまま、影にうつる」ということばにありました。「形(ふるまい)」は「影(データ)」に現れる。しかし、影だけをつくることはできない。このことばの通り、プラクティスするじぶんの姿形を影として映し出すしくみをつくれば、それを利用して助け合える。すべては、行為の状況・内部・経緯(コンテクスト)に顕れているのです。

エンパシームのPurpose

同志の石川さんと共に13年、私たちは「本当に鏡のように映し返される方法」を求め、試行錯誤を重ねてきました。単なる比喩の「鏡」ではなく、人間の無意識のふるまいを再現可能な形でデータ化し、映し返して気づきを促すしくみをつくる挑戦です。その結実が、プラクティスを助ける「共感的な」しくみ、エンパシーム(Empatheme)です。共感的とは、人間とAIが明示的なやりとりに加え、状況を表す暗黙的な合図(プロンプト)を互いにやりとりできることです。

ことばが生まれる状況を共有しなければ、AIはその人にとって本当に親身に役立つことはできません。また、人間もAIに心を開き、たずねたり、教えたりすることができません。AIは、明示的な言語で要件や意図を伝える仕事では大いに力は発揮します。しかし、人間と何気なくやりとりを生み出すことができません。なぜなら、やりとりはAIだけの問題ではなく、人間とAIとの相互作用だからです。AIには姿勢や表情、仕草がなく、人間もまた、AIに対して自身の姿勢や表情、仕草を伝える手段を持ちません。だからこそ、共にふれあい、コンテクストを生み出し共有できるためのテクノロジーが不可欠です。しかし、それだけでは十分ではありません。テクノロジーの構築だけでなく、人間の洞察(発見)とシステム側の設計(発明)の両面からアプローチし、実際に「プラクティス」の環境を提供することこそが、エンパシームの希い(Purpose)です。

Hidenori Ishikawa portrait

石川英憲 (いしかわひでのり)

1970年 広島県出身。
カリフォルニア州パロアルト市在住。
SomniQ CTO
エンジニア、アントレプレナー

2012年~ SomniQ CTO 発明・研究開発・制作・サービス運営 
2012年以前 Sony Ericsson、ソニーにて技術戦略担当

半導体の基礎から商品応用にわたる技術開発と市場導入に携わり、新技術・製品の事業化を推進。

活動

現在、共創AIとしてのエンパシーム技術を応用した英語プログラムの事業化を進めており、その中核の「エンパシーム・ラボ」を立ち上げ、研究・開発・実証活動を展開中です。エンパシームデータを用いて英語学習者を支援するプラットフォームの開発を推進し、人の無意識のフチが織りなすエンパシームデータを活用した、新しい学習支援の方法の確立を目指しています。

これまで、心理学、脳神経科学、音声学、学び・習慣の科学とエンパシーム技術を融合し、新しい研究領域の開拓を目指してきました。
東洋大学と共同研究では、授業の開発に合わせてエンパシームの実証実験を行い、論文が工学教育誌で採択されるなどの成果を収めました。2023年には、第2言語習得メソッドにおいて、従来は取得が困難だったデータをエンパシームで視覚化し、その分析により学習者を支援できる可能性について言及した論文を公開しました。

こうした研究活動を通じて私たちが目指すのは、技術の進化にとどまらず、人が自分の無意識と向き合い、心の調律を行えるような新しい体験の創出です。世界中の人が、たとえ短い時間でも心の平穏を感じられるしくみがあれば、それは平和な社会の実現にもつながると、私は確信しています。エンパシームは、その時間を具体的かつ現実的に生み出すことができるということを実証するため、日々、その研究と開発に取り組んでいます。