エンパシームへの路
20歳の時、父が病気で不随になり、声を発することができなくなりました。私は無力感に苛まれながらも、父が他界するまでの5年間、ひらがな文字盤を使い、手と息とまなざしで、ふれあうことを学びました。これがエンパシームの原点です。
そのことに気づいたのは、12年前、姉が急逝した時でした。いちばん身近で大切な人がある日突然、消えてしまいました。じぶんとの対話をねがって名づけたスマホ「エクスペリア」は、何ひとつ、姉の助けになれませんでした。私は、喪失感と挫折感に苦しみました。
6年前、母の臨死がありました。救命で蘇生した母のことばで、姉の存在のありがたさに気づきました。そして、それは無意識の心の中に育つものであることも。人は、じぶんのためにだけでなく、ひとのために生きています。そのようにひと言、声に出すことばが、じぶんのねがいになります。
ゼロ人称のじぶんのことば
「無意識のじぶんがいる。意識されないじぶん、意識しようにもできないじぶん。それは、言ってみれば、ゼロ人称のじぶん。一人称以前の、素のじぶん。
生きて暮らす時間の大半を「ゼロの地帯」で、じぶん自身とコミュニケーションをとっている。何かを思い出す時も、考えている時も、歩いている時も、食べている時も、日記を書いている時も、夢を見ている時も。ゼロ人称のじぶんを包むように、なぞるように、たしかめるように、くりかえし、ふりかえり、心に声をかけて生きている。
そのじぶんが使っていることばが、インナースピーチ。声で身につけて、脳に再現できることば、内なる言語。相手のことばを聞き、思い浮かべ、そのことばに心で応答するじぶんがいる。脳に出し入れする肉声の響きが心をつくり、心の中のことばがじぶんをつくる。」
インナースピーチが共感の路をひらく
思いがあるとことばは自然に出てきます。思いは放っておくと消えてしまいます。思いをインナースピーチ化することで心が行動に現れます。インナースピーチは、思いをつくり、心を育ててくれる、あなたのいちばん身近な友。
エンパシームは、あなたのインナースピーチを抽出し「あなたの思いをつくる」共感的なしくみです。エンパシーム (Empatheme)という名前には、共感 (Empathy) の最小単位(Empatheme)になる、という意味がこめられています。
ゼロ人称のじぶんのことばを使うことで、無意識の力が引き出せます。私たちは、みな、ゼロ人称のじぶんです。
エンパシームを利用・活用しやすくするために、音声・言語・心理・哲学・統計の研究を重ねてきました。私自身の35年の実体験をもとに、多くのご協力・参加をえて実現したものが、英語トレイルと修養トレイルです。ひと息ごとに、インナースピーチをつくっていくトレイルです。そして楽しみを分かちあうために、日々エンパレットを出しています。
坂口 立考